昨年に続き今年もコロナ禍においてゲルハルト・オピッツが来日し、全国ツアーを開始しようとしている。ヴィルヘルム・ケンプを師に持ち、ドイツ正統派を代表するピアニストとしてバッハから現代曲まで幅広いレパートリーを擁するが、特にベートーヴェンとブラームスに関しては、非常に高い評価を得ている。11月24日、浜離宮朝日ホールでの公演は、そのふたりの作曲家にシューマンが加わり、まさにオピッツの真骨頂を味わえるプログラムとなっている。552席という浜離宮朝日ホールの親密な空間で、語りかけるようなピアノの響きに浸りたい。
〈ゲルハルト・オピッツが、浜離宮朝日ホールでのリサイタルに寄せたメッセージ〉
ベートーヴェン生誕250周年の去年、人々は彼の音楽が不滅であることを再認識しました。ベートーヴェンは魔法のような力で当時の人々を魅了し、世界全体を包み込みました。彼の芸術的志向は未来へと強く向かい、音楽史は彼の影響を受け発展していきました。ベートーヴェンがピアノ・ソナタで表現性を確立し、さらにシューマンとブラームスがその後継者として芸術的個性を打ち立てた時代へと、皆さんを創造の旅へ誘います。
ベートーヴェンの2つのソナタには詩と物語への傾倒が表れています。やや内的な《テンペスト》と激しい表現性を持つ《熱情》は、どちらも感情や思考が完璧に構築され、一切無駄のない完璧なバランスで成り立っています。
シューマンとブラームスは、若き日にベートーヴェンへの畏敬の念からピアノ・ソナタを作曲しましたが、創作活動はソナタ形式以外へと向かいました。シューマンは詩的性格を持つ小品で自身の音楽言語を発見し、その成熟した音楽性を「幻想小曲集」で見出しました。ブラームスはシューマンと彼の芸術を愛してやまず、シューマンもブラームスの芸術性を敬い彼を世に送り出す労を取るなど、二人は良き友でした。ブラームスも詩的表現を最大限にまで高め、晩年に多数作曲した小品から7つの「幻想曲集」を選び抜きました。ブラームスの集大成とも言えるこの傑作群の中で、私が一番好きなのは第4番の間奏曲です。もしブラームスがこの間奏曲だけを作曲したとしたら、彼は数ある作曲家の中でも永遠の場所を与えられたでしょう。
ゲルハルト・オピッツ ピアノ・リサイタル
2021.11/24(水)19:00 浜離宮朝日ホール
♪ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 Op.31-2「テンペスト」
♪ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 Op.57「熱情」
♪ シューマン:幻想小曲集 Op.111
♪ ブラームス:幻想曲集 Op.116
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990