輝くような美をお届けしたい
キラリと輝く感性、技術そしてキャリアをも持ち合わせた若手ピアニストを紹介する彩の国さいたま芸術劇場《ピアノ・エトワール・シリーズ》。この12月には大崎結真が登場する。大崎は高校卒業と同時にイタリア、フランスへ留学し、ロン=ティボー、ジュネーヴ、リーズなど名だたる国際コンクールで上位入賞を果たした実力派。2010年から拠点を日本に移し、ショパン・ラヴェル・ドビュッシーのアルバムをリリースし、気鋭の日本人作曲家・藤倉大の作品に取り組むなど精力的に活動中だ。今回のリサイタルでは得意のオール・フランス・プログラムで臨む。
「前半はドビュッシーの『版画』、ラヴェルの『水の戯れ』と『夜のガスパール』です。この2人の作曲家は対照的ですね。ドビュッシーは自然を愛し、彼の音楽は宇宙との調和を感じさせてくれます。一方ラヴェルは機械仕掛けの玩具が大好きだったほど、人工的な美を愛した人。両者を『印象派』という言葉でいっしょくたにする見方もありますが、私は同じ演奏会で並べるからにはいろいろな聴かせ方を追求したいです。似ている部分を強調するのか、それとも違いを際立たせるのか。作品を『活かす』方法にはいろいろあると思うのです」
後半は一段と濃厚な響きを増す。メシアンの「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」(抜粋)とデュティユーのピアノ・ソナタ(全楽章)だ。
「どちらも20世紀の前半に書かれた作品ですが、誰の耳にも馴染みのあるものとは言いがたいでしょう。聴覚はおそらく他のどの感覚よりも保守的ですから、文学や美術に比べ、新しい音楽は難しく感じられます。とくにメシアンの音楽はカトリック信仰が軸にありますので、日本では敬遠されるかもしれません。しかし私が初めて聴いたときは、そうした壁を難なくクリアして伝わるものがありました。メシアン本人は難解な音楽思考を持っていたかもしれませんが、彼の音楽は超越的な美となって聴き手に感動を与えてくれるのです。デュティユーのソナタも3楽章のみ演奏されることが多いのですが、全楽章を通して聴くと、彼が明確に意図した規模の大きさが伝わります」
超越的な美を宿した作品へのアプローチ。大崎はどんな姿勢で臨むのか。
「作曲家も作品も、それはもう圧倒的に遠い存在です。そこに匍匐(ほふく)前進でにじりよるようにして、少しでも近づきたいですね。会場のお客様と呼応しながら、フランス音楽の輝くような響きをお届けしたいと思います」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2013年12月号から)
ピアノ・エトワール・シリーズ Vol.23
大崎結真
★12月1日(日)・彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
問 彩の国さいたま芸術劇場0570-064-939
http://www.saf.or.jp/arthall