新国立劇場 開場20周年記念公演 細川俊夫/サシャ・ヴァルツ:《松風》(新制作・日本初演)

ダンスと声楽が一体となって現れる幽玄な世界

モネ劇場公演(2011年)より C)Bernd Uhlig
 ドイツのコンテンポラリー・ダンスでは、もはや大御所といえるサシャ・ヴァルツ。今回新国立劇場で上演するのは、能の名作『松風』を下地に細川俊夫が作曲した1幕5場のオペラである。能『松風』は、海の精である松風(イルゼ・エーレンス)、村雨(シャルロッテ・ヘッレカント)の姉妹が、須磨に流された在原行平との悲恋を語る話だ。2011年にベルギーのモネ劇場で初演以来、高い評価を得てきた。ドイツ語の台本は、昨年、平田オリザの原作・演出、細川が作曲したオペラ《海、静かな海》(能の『隅田川』をモチーフに福島の原発事故を描く)でも協働した、気鋭の若手作家ハンナ・デュブゲンが手がけている。
 美術には世界的に活躍している塩田千春が参加する。近年日本で公開された『鍵のかかった部屋』は無数の赤い紐を部屋中に張り巡らせたものだった。本作でも、舞台を覆う黒い紐状の舞台装置が効果的に使われる。それは絡まりあった松の葉のようにも、姉妹が住む海の底のようにも見える。
 ヴァルツはダンスでも演劇的な要素を豊かに取り入れながら、身体のリアルを強く深く追求してきた。今回もダンスは自身のカンパニーであるサシャ・ヴァルツ&ゲスツが出演する。彼女は「コレオグラフィック・オペラ」というスタイルを提唱しているが、これは歌手やコーラスにもダンス的要素を要求するものだ。「舞踊とオペラが融合した新しい作品形態を最も的確に実現」することを期して作曲したという細川の言葉を考えると、ヴァルツとのコラボレーションは最高の形でのオペラ上演といえるだろう。管弦楽はデヴィッド・ロバート・コールマン指揮の東京交響楽団。
文:乗越たかお
(ぶらあぼ2018年1月号より)

2018.2/16(金)〜 2/18(日) 新国立劇場 オペラパレス
問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999 
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/