
クラウディア・マーンケ ©Monika Rittershaus/シュテファン・リューガマー ©Simon Pauly
ファルク・シュトルックマン
ヴァイグレと読響のコンビは、これまでもアイスラーの「ドイツ交響曲」、演奏会形式でのベルクの《ヴォツェック》などを定期公演のプログラムにのせてきた。規模も編成も大きく、声楽も加わる20世紀前半に書かれた独墺音楽の「問題作」を取り上げるのは、自らの音楽的な使命というヴァイグレ。今回ついにというべきか、プフィッツナーのカンタータ「ドイツ精神について」の日本初演にこぎ着けた。
「ドイツ精神について」は、アイヒェンドルフの詩に基づく、ドイツの自然や芸術を讃えたカンタータだ。当時は、新ウィーン楽派などの新しい音楽が台頭した変革期。「最後のロマン主義者」たるプフィッツナーは、そうした状況が許せない。ベートーヴェンやシューマンらの音楽や精神を引き継ぐべく、調性が明瞭で、ロマン派ならではの表現を極めようと作曲したのがこの100分に及ぶ大作だった。
作品が書かれたのは1921年。ナチスが勢力を拡大しつつあった時期に、プフィッツナーの保守主義、愛国主義は政治勢力に利用されやすい立場にあった。そのため、戦後にはドイツ国内では演奏しにくくなるケースも出てくる(2007年の東西ドイツ統一記念日にメッツマッハーがこの曲を演奏したときには大きな議論を巻き起こした)。
もちろん、この作品そのものにナチスに通じる思想は一切ない。あるのは、滅びゆくロマン派の最後の輝き。ヴァイグレと読響による日没の輝きのような音色がホールを満たすはずだ。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2025年12月号より)
セバスティアン・ヴァイグレ(指揮) 読売日本交響楽団 第654回 定期演奏会
2026.1/20(火)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
https://yomikyo.or.jp

鈴木淳史 Atsufumi Suzuki
雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
https://bsky.app/profile/suzukiatsufmi.bsky.social

