園田隆一郎(指揮)

ロッシーニを振りたくて指揮者を目指したのです

©Fabio Parenzan
©Fabio Parenzan
 デビュー10年で「オペラの若きマエストロ」として世評を確立、欧州の歌劇場からも頼りにされる園田隆一郎。人柄は穏やかでも行動力は人一倍の彼が、この6月、ロッシーニの名作《セビリアの理髪師》に挑む。
「今年初演200周年を迎える《セビリア》は、ロッシーニのオペラで一番愛される一方で、歌い手に最も“弄られてきた”作品でもあります。悪く言えば、手垢がついた演奏が多いといいますか(笑)。舞台で笑いを強調し過ぎて音楽が犠牲になる嫌いもありました。今回は、この作曲家特有の透明感ある響きのもと、躍動感に満ちた上質な音楽の喜劇を作り上げたいです」
 今回は信頼する演出家、粟國淳との共同作業。園田の口調も熱くなる。
「歌手は皆、オーディションで選ばれたダブルキャストです。まずはメゾソプラノ(富岡明子&中島郁子)のロジーナ。イタリア人は低い声に女性の色気を感じますね。フィガロには声の豊かなバリトン(青山貴&上江隼人)、ロッシーニ・テノールのおふたり(中井亮一&山本康寛)には、終盤の伯爵の大アリアも歌ってもらいます。全曲やると相当長いので、レチタティーヴォは多少切り詰めましたが、カットされがちな“ロジーナの悲しみの場”は全部演奏します。嵐の音楽の前後で、恋人が裏切ったと誤解して彼女が落ち込む姿は物語の要です」
 イタリアでジェルメッティとゼッダという2人の巨匠に教えを受けた園田。「ロッシーニを振りたくて指揮者を目指した」彼の道のりとは?
「ピンポイントな目標でしょう(笑)。原点は《チェネレントラ》の第1幕フィナーレです。ポネル演出の映像を100回以上見るぐらい、心奪われました。音楽が数学的に綺麗に、緻密に配列されているのに、最後に大きな興奮が得られる…そのことにとても驚き、自分を元気づけたい時に聴く作曲家になったのです」
 そこでまず、東京芸大の4年生の時にイタリアに短期留学。ジェルメッティがシエナでロッシーニのオペラだけを指揮するという講習会に「まだイタリア語も全然喋れぬまま」参加した。
「その時、ジェルメッティ先生に言われました『君は日本人だし意識も真っさらだから、過去の変な慣習など知る必要もない。まずは目の前の楽譜を読み、それを素直に解釈して棒を振れ!』と。このご縁がきっかけで、卒業後に長期の留学も叶い、先生の居るローマで修練を積みました。その後、ゼッダさんとのご縁も生まれ、ペーザロ・ロッシーニ音楽祭で《ランスへの旅》を振るなどして今日に至っています。今回、様式感を大切にしつつ、《セビリアの理髪師》の楽しさを存分にお届けします。ぜひご覧下さい!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年6月号から)

NISSAY OPERA 2016《セビリアの理髪師》
6/18(土)、6/19(日)各日14:00 日生劇場
問:日生劇場03-3503-3111
http://www.nissaytheatre.or.jp