藤岡幸夫(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

自然の安らぎと平和への祈りを込めて

 「田園」交響曲といえば多くの人が思い浮かべるのは、もちろんベートーヴェンの第6番。しかし、他にも隠れた名作があるのだなと思わせてくれるのが、イギリスの作曲家ヴォーン=ウィリアムズの「田園交響曲」(交響曲第3番)である。第一次世界大戦時、看護兵として従軍していた作曲者の体験が元になっており、戦場で怪我をした兵士たちを自陣へ連れ帰る毎日を送っていたときに見たフランスの美しい夕暮れの風景が、彼にこの曲を書かせたのだ。
 イギリスで長く活動してきた藤岡幸夫は、この作曲家と音楽に触れてシンパシーを抱き、今年の6月には首席指揮者を務める関西フィルの定期演奏会でもこの交響曲を指揮。約35分、全体的に穏やかで不思議な安らぎを与えてくれる音楽だが、未知の作品だからといって敬遠してしまうにはあまりにも惜しい。戦後70年という平和への希求が高まる今だからこそ「こういう曲もあったのか」と発見したい作品なのである。ただし、そうした曲の背景を考慮せずともイギリス特有の田園音楽としても楽しめるため、シベリウスやエルガー、ディーリアスなどの音楽がお好きな方であれば必聴だ。ソプラノ独唱(ヴォカリーズ)は半田美和子が務める。
 そして共に演奏されるベートーヴェンの「田園」は、あらためて言うまでもない名作。高関時代になってサウンドがよりタイトになった東京シティ・フィルの演奏は、2つの「田園」でどのような世界を描いてくれるのだろうか。
文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)

第293回 定期演奏会
11/6(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
http://www.cityphil.jp