話題作『バレエ・フォー・ライフ』と最新作、そしてバレエ団の近況を語る
世界的振付家モーリス・ベジャール(1927〜2007)が創設し、現在はスイスのローザンヌを拠点とするモーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)の日本公演が、10月に東京文化会館で開催される。当初昨年に予定されていたが、コロナ禍の影響により二度の延期を余儀なくされ、ついに今年、開催が実現することとなった。この公演に先立ち8月23日、同バレエ団の芸術監督であるジル・ロマンと招聘元の公益財団法人日本舞台芸術振興会専務理事・髙橋典夫による記者会見が行われた。
ジル・ロマンは前日まで東京で行われていた「世界バレエフェスティバル」に出演し、アレッサンドラ・フェリとの共演でベジャール振付の『椅子』(劇作家ウージェーヌ・イヨネスコの戯曲を基にしたパ・ド・ドゥ)を披露して好評を博したばかり。帰国の途につく直前に、次の来日公演への思いを語った。
10月の来日では、3つの演目で構成されたミックス・プログラムと、ロックとバレエを融合させたベジャール振付の名作『バレエ・フォー・ライフ』の2公演が行われる。ジル・ロマンがそれぞれの演目について次のように説明した。
ミックス・プロの1つ目は、2019年初演の『人はいつでも夢想する』。現代アメリカの作曲家ジョン・ゾーンの音楽を使用したジル・ロマンの最新作だ。
「ジョン・ゾーンはクラシックからモダンまで多様なジャンルの曲を作っているのですが、わたしが何年も前から好きだった彼の音楽を使用しています。実際にニューヨークで彼と会って創り上げた作品です。わたしは、バレエは『旅』であり『出会い』であると思っています。音楽とダンサーが出会うことによって“テーマ”が生まれるのです。“今”の人生にインスピレーションを得てこの作品をつくっていきました」
2つ目は、シャンソン歌手を題材としたベジャール振付の『ブレルとバルバラ』。
「我々のカンパニーにとって大切な作品です。踊るたびに心から感じるものがあり、皆さまにもその感動が伝わればと思います。ブレルとバルバラにはアーティストとして魅了されることが多く、わたし自身、子どものころから彼らの歌をうたってきました。ブレルとバルバラの歌には多くの人を惹きつける世界観があります。この作品は、以前にも日本のあるガラ公演でエリザベット・ロスと踊りましたが、今回は全編を上演します」
ミックス・プロの最後は『ボレロ』。巨大な赤いテーブルの上で踊る一人のダンサー(メロディ)と、周囲をかこむ複数のダンサー(リズム)が登場する、ラヴェルの同題曲に振り付けたベジャールの代表作だ。
「あえて説明する必要がないほど、何度も踊っている作品です。誰がテーブルにのぼるかは10月のお楽しみです」
そして『バレエ・フォー・ライフ』について。
2018年公開の映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしたロック・バンド、クイーンの音楽を題材とした同作品。日本でもこれまでに4回上演された人気作だ。
「この作品には、困難な時代だからこそ人々に訴えかける力強さがあると感じています。ベジャールが語っていたこの作品のテーマは、『若くして亡くなった人々への思い』です。45歳で亡くなったジョルジュ・ドンやフレディ・マーキュリーが登場し、同じく早逝したモーツァルトの音楽も使用しています。重いテーマではありますが、大変大きなエネルギーを放っている作品です。今日の困難な状況下で、さらに作品の持つ意味が深まり、今年この『バレエ・フォー・ライフ』をお届けできることを嬉しく思っています」
同作品の衣裳はベジャールの近しい友人だったジャンニ・ ヴェルサーチが担当。ベジャールは当初、白と黒の衣裳をオーダーしていたが、出来上がった衣裳は、クイーンの世界観にインスピレーションを得た空想的なものとなったそう。
「カンパニーを代表して、日本で踊れることを本当に楽しみにしています。このツアーが実現することを、心から願っています」
今回の公演は、文化庁子供文化芸術活動支援事業として、小学校1年生から18 歳以下の子どもたちを対象に、無料招待が実施される。コロナ禍において、文化芸術の鑑賞機会が多く失われている状況を鑑みて、子どもたちに実演芸術の鑑賞・体験等を提供する取組みだ。
髙橋専務理事は「二度の延期を経て、BBL18度目の来日公演が実現します。演目はクイーンなど中高生にも親しみやすい音楽を使用しています。今回の子どもたちの鑑賞体験が、新しいバレエファン層の開拓に繋がることを願っています。そして、コロナ禍で若い人たちへ機会を与えるということはとても重要なこと。劇場に足を運んで何かを感じとってほしいですし、種を撒いていくことが必要だと思っています」とこの取組みの意義を語った。
また、ジル・ロマンはパンデミック中のバレエ団について、「距離を持って生きることは困難ですし、バレエ団の運営面でもたくさんの問題がありました。ディレクターとしては、ダンサーの精神面でのサポートが大切だと思います。パンデミックの間は、過去のベジャール作品の振り起こしを時間をかけて行い、スタジオに限られた人数の観客を呼んで上演しました。そういったことがダンサーの自信に繋がったと思います。6〜7月には久しぶりにツアーを行うことができ、本当に感動しました」と述べ、最後に「わたしはダンサーとの信頼や愛が大切だと思います。信頼関係がある限りは、このグループを率いて活動を続けていきたいと思います」と語った。
【Information】
モーリス・ベジャール・バレエ団 2021年日本公演
〈ミックス・プロ〉
2021.10/9(土)14:00、10/10(日)14:00、10/11(月)18:30
〈バレエ・フォー・ライフ〉
10/14(木)18:30、10 /15(金)14:00、10/16(土)14:00、10/17(日)14:00
東京文化会館
『人はいつでも夢想する』
振付:ジル・ロマン
音楽:ジョン・ゾーン
台本・ビデオ共同作業:マルク・オローニュ
衣裳:アンリ・ダヴィラ
照明:ドミニク・ロマン
『ボレロ』
振付:モーリス・ベジャール
音楽:モーリス・ラヴェル
『バレエ・フォー・ライフ』
振付:モーリス・ベジャール
音楽:クイーン、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
衣裳デザイン:ジャンニ・ヴェルサーチ
照明デザイン:クレマン・ケロル
照明:ドミニク・ロマン
ビデオ編集:ジェルメーヌ・コアン
使用曲
●QUEEN
イッツ・ア・ビューティフル・デイ
アイ・ワズ・ボーン・トゥ・ラヴ・ユー
ラジオ・ガ・ガ
ラヴ・オブ・マイ・ライフ〜ブライトン・ロック
ボヘミアン・ラプソディ
ブレイク・フリー
ショウ・マスト・ゴー・オン 他
●モーツァルト
コジ・ファン・トゥッテ
エジプト王タモス
ピアノ協奏曲第21番
フリーメーソンのための葬送音楽 K.477
協奏交響曲変ホ長調 K.364
8/27(金)発売
NBSチケットセンター03-3791-8888
https://www.nbs.or.jp
〈18歳以下限定・子ども無料招待〉
◎対象総席数
計3253 席
◎対象者
公演当日に、小学校1年生〜18 歳以下のお子様
◎受付期間
第1次受付:8/27(金)10:00〜9/10(金)23:59
第2次受付:9/27(月)10:00〜各公演日前日の23:00
◎受付方法
NBS WEB チケットのみでの受付:https://www.nbs.or.jp/ticket/ticket.html