佐藤晴真(チェロ)

ファンである久石譲さんとの初共演で、スメラの協奏曲を弾けるのは楽しみです

(c)ヒダキトモコ

 日本を代表する作曲家で、近年は指揮でも注目すべき活動を展開している久石譲が日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任する。それを記念した第257回定期演奏会(ザ・シンフォニーホール)では久石自身の作品、ベートーヴェンの交響曲第7番のほかに、エストニアの現代作曲家レポ・スメラ(1950-2000)のチェロ協奏曲が披露されるが、そのスメラ作品のソリストに抜擢されたのはミュンヘン国際音楽コンクール第1位を獲得(2019年)した気鋭の若手・佐藤晴真だ。彼に、このコンサートへの期待、協奏曲の魅力について聞いた。

 「スメラの作品に取り組むのはもちろん初めてで、実は彼の名前を知ったのもこの演奏の依頼があってからでしたが、この『チェロ協奏曲』を聴いてみて、第一印象として思ったことは、エストニアという国そのものの成り立ちについてでした。バルト海に面したこの国は、歴史的に他国の侵略や支配を常に受けていて、20世紀にはソビエト連邦やナチス・ドイツに支配された時期もありました。そうした自分の国というもののアイデンティティが無くなるような状況を経験した民族の悲しみ、嘆きがやはり作品の中に満ちているという感想をまず持ちました」

 このチェロ協奏曲自体は1999年の作品で、若くして亡くなったスメラの作品としては最晩年の大作となる。

 「カオティックで実験的な現代音楽であふれる昨今、感情の部分にフォーカスし人間の内面を映し出すような音楽は、とても貴重だと感じています。チェリストにとって難しい作品ですが、スメラはチェロの楽器としての個性をよく把握していたと思います。ショスタコーヴィチの『チェロ協奏曲第2番』とも共通する要素があると感じました」

 やはり作曲家の晩年に書かれたショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第2番も彼の苦悩を表現した作品として知られるが、佐藤はこの曲で日本センチュリー交響楽団にデビューした。

 「その時もリハーサルに十分な時間を取っていただき、またオーケストラの方々のポジティブで温かい雰囲気が伝わってきて、そのサウンドに包まれるような形で演奏できたので、とても素晴らしい体験でした。今回のスメラも共演が楽しみです」 

 もちろん“憧れ”の久石との共演も、それに輪をかけて楽しみな様子だ。

 「スタジオ・ジブリ作品のファンとして、久石さんの音楽をずっと聴いてきましたし、共演は今回が初めてですが、最近の指揮者としての久石さんの活動も、そのオケに参加した友人たちから話を聞いていました。作曲家としての視点を大事にした解釈で、斬新さと本質が共存した音楽の見方をされるという点は、すべての音楽家が目指すべきものだと思います。ベートーヴェンも客席でしっかり聴きたいと思っています」

 この秋には自身のリサイタル・ツアーもあるなど、ますます多忙な佐藤だが、久石との時間は彼にとって貴重なものとなるはず。演奏会の成果が楽しみである。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2021年9月号より)

日本センチュリー交響楽団 第257回 定期演奏会
2021.9/24(金)19:00 ザ・シンフォニーホール
問:センチュリー・チケットサービス06-6848-3311
https://www.century-orchestra.jp