佐渡 裕(指揮)

“宝塚”の雰囲気と関西のお笑いを取り入れた
《メリー・ウィドウ》を愉しんでください

撮影:飯島 隆/提供:兵庫県立芸術文化センター

 兵庫県立芸術文化センターが、毎年恒例夏のオペラに《メリー・ウィドウ》(日本語上演)を改訂新制作する。プロデュースする佐渡裕芸術監督に話を聞いた。

 「開館から15年間、街にオペラ文化を根付かせたいということで、様々なハプニングはありつつも、一歩一歩やってきました。《ヘンゼルとグレーテル》(鈴木敬介演出)、《蝶々夫人》(栗山昌良演出)から始まって、オペラ・ブッファ、オペレッタ、ミュージカルと、素晴らしい歌手、演出家、スタッフに恵まれてきました」と経緯を話す。それを踏まえて今回の企画につながる契機として「その中でも最も誇らしいのが、2008年の《メリー・ウィドウ》でした。これは世界でも唯一の舞台だったと自負しています」。

 前回は人気が沸騰して追加公演を繰り返し、2万人を動員した。その成功の要因として、関西ならではの演出をあげる。

 「演出の広渡勲さんと共同で作り上げた、“宝塚風”の煌びやかな舞台です。私は宝塚歌劇の100周年の記念公演に招かれて初めて指揮をしたのですが、そこで目にしたのが歌舞伎の花道に当たる宝塚独特の『銀橋』。オーケストラ・ピットと客席との間に舞台(通路)をしつらえて、その上で歌手たちが演技をするのです。本編が終わった後に絢爛豪華な“グランド・フィナーレ”を打ち出すのも宝塚流ですが、本格的なオペレッタの世界をぜひ今回も観てほしいです」

 もう一つは関西のお笑い文化。前回は、狂言回しのニエグシュの役を桂ざこばが演じて、タップダンスをするなどして笑いを取った。今年は関西落語界の重鎮・桂文枝が登場する。

 文枝とはジルヴェスター・コンサートで何度も共演して「芸に対する真摯さが印象的」だという。その際、佐渡もお囃子の相手をしたが、「完璧になるまで何十分も練習させられました。今回も文枝師匠の視点でまた作品が生まれ変わるのではないでしょうか」と期待する。なお文枝はNHKニューイヤーオペラコンサートで同作品の短いバージョンは経験済み。

 「今回の舞台も、前回の成功した演出を生かし、さらにパワーアップして提示したいと思います。たとえば、新しい配役にも注目してほしいです。今回初登場のダニロ役・黒田祐貴さんは、初演時に同役で出演した黒田博さんの息子さん。しかも博さんは私が所属していた少年合唱団の後輩でもあり、縁を感じます。同じく初登場のハンナ役・高野百合絵さんともどもオーディションで聴かせていただき、スター性と将来性を非常に感じました。もう一方のハンナ役・並河寿美さんは当センターと関わりの深いプリマドンナであり、ダニロの大山大輔さんも出演歴が多く、プロデュースオペラを知り尽くした2人です。ベテランたちが心地よく盛り上げてくれるでしょう」

 《メリー・ウィドウ》はラブストーリーではあるが、主役のハンナとダニロはくっつきそうでなかなかくっつかない。
 「これこそソーシャル・ディスタンス。もっと正直になったらいいのに。子どものようで大人な2人の恋の物語。ハラハラ、ドキドキ、イライラを大いに楽しんでほしい」

 コロナの感染対策は十分に練っているともいう。
 「さまざまな個所を新しく変えて、1回目よりさらに大胆に挑戦したい。愉しいステージを存分に味わってほしい」と意気込む。

 佐渡裕プロデュース《メリー・ウィドウ》が底抜けに楽しくはじける舞台になって、必ずやコロナ禍の重苦しい重圧を吹き飛ばしてくれるだろう。大いに期待したい。
取材・文:横原千史
(ぶらあぼ2021年7月号より)

佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021
喜歌劇《メリー・ウィドウ》全3幕(日本語上演・字幕付/改訂新制作)
2021.7/16(金)、7/17(土)、7/18(日)、7/20(火)、7/21(水)、7/22(木・祝)、7/24(土)、7/25(日)各日14:00
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
問:芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255
http://www.gcenter-hyogo.jp/merrywidow/
※配役などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。