INTERVIEW|鈴木優人(調布国際音楽祭エグゼクティブ・プロデューサー)

コロナ禍を経た私たちの世界に音楽がどう響くのか、共に聴きましょう!

取材・文:長谷川京介 写真:編集部

「調布国際音楽祭」は調布を舞台に、毎年初夏に行われる音楽の祭典。2013年にスタートして以来、手作りの感覚とクオリティを両立させたラインナップで親しまれ、年々注目度も増している。

昨年は新型コロナウイルスの影響ですべての公演が中止となったが、史上初のオンライン音楽祭「@(アット)調布国際音楽祭」を開催し、大きな反響を呼んだ。第9回の今年は6月27日から7月4日まで8日間にわたっておこなわれる。開催を間近に控え、多忙なエグゼクティブ・プロデューサーの鈴木優人氏に、今年の意気込みと公演について聞いた。

── 昨年は23もの演奏会を配信し、世界16ヵ国から約10万回のアクセスがあり、大きな成果を収めましたが、そこで得たものとは何だったのでしょうか。

配信をしようと企画書を書いて行ったというよりも、勢いが勝手にそうさせました。N響をはじめ多くの音楽家が集まることになっており、ベートーヴェン・イヤーでバッハ・コレギウム・ジャパンも「第九」を予定するなど、とめどないエネルギーがありました。自然のバックアップのように、化学反応のように配信が行われました。得たものは、配信の良し悪しというよりは、音楽そのものに力があることを知ったこと。そして、バーチャルですがお客様としっかり繋がったことです。

@調布国際音楽祭 史上初!100人による第九リモートコンサート「歓喜の歌」

── 今年は収容定員の50%ですが、無事開催されることになりました。配信もあるのでしょうか。

実は昨年ライブの大切さに改めて気付かされたのです。無観客の公演が続いた後、久々にお客様の前で演奏した時に、聴衆のみなさまは本当にかけがえのない存在であると痛感しました。お客様が静かに座っているという行為は、積極的に音楽に耳を傾けているということです。音こそ出しませんが、パート譜の休符を見ている演奏家と同じように、演奏に参加されているのだと思います。音楽を鳴らしている沈黙と言いましょうか。それはまさにお客様が作る音楽ですね。遠方の方もいらっしゃるので、一部配信も行う予定です。

── 今年の合言葉は「新しい世界へ!」ですが、コロナを越えていこうという意味でしょうか。

まさにそうです! (フェスティバル・オーケストラの公演で演奏される)ドヴォルザーク「新世界より」にも掛けていますが、ワクチン接種が広まりつつある世の中で、音楽が必要とならないはずがありません。コロナ禍を経た私たちの世界に音楽がどう響くのか一緒に聴きましょう!という思いを込めて開催したいと思います。

── 今年の音楽祭の見どころ・聴きどころについてお聞かせください。

特に推したいのが、「カルテット・アマービレ」と「フェスティバル・オーケストラ × 鈴木雅明」、そして「読響 × 鈴木優人」です。アマービレは今飛ぶ鳥を落とす勢いのクァルテットです。全員が地元桐朋学園出身で、故郷に錦を飾ることになります。彼らは、僕が大学3年・21歳の時に書いた「弦楽四重奏のための『永訣の朝』」を演奏します。宮沢賢治の詩『永訣の朝』を音楽にしました。亡くなる直前の妹とし子を描いた痛ましい内容ですが、聴くだけで詩が思い浮かぶと思います。ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」を弦楽四重奏で演奏するのはとても難しいですが、アマービレならではの溌溂としたタンゴが聴けるでしょう。

カルテット・アマービレ ピアソラ生誕100周年記念
~アートと物語、そしてタンゴの世界へ

7/2(金)19:00 たづくり くすのきホール
♪ ブラス:エッチング
♪ 鈴木優人:弦楽四重奏のための「永訣の朝」
♪ ヴィトマン:弦楽四重奏曲 第3番《狩》
♪ 三善晃:弦楽四重奏曲 第2番
♪ ピアソラ(山中惇史編):ブエノスアイレスの四季
弦楽四重奏:カルテット・アマービレ

── メンバーがオーディションで選ばれ、N響、読響ほか各オーケストラの首席クラスの講師陣も参加するフェスティバル・オーケストラは調布国際音楽祭の名物になっています。

コロナで心配していたのですが、あっという間にメンバーが集まりました。今回はドヴォルザーク「新世界より」を父、鈴木雅明が初めて指揮します。どんな演奏になるのかとても楽しみです。

── 「ブランデンブルク協奏曲第3番」は弦楽だけの曲ですね。

優秀な若手たちの抜粋メンバーによるオリジナル通りの編成ですが、ヴァイオリンはダブルにするので、実際には十三重奏になる予定ですが、リハーサルで変わるかもしれません。このオーケストラはフレキシブルさが売りで、(リハーサルから本番までの)4日間の伸びしろがすごいです。リハーサルも見学できますので、本番だけではなく、そこに向かう若者たちの切磋琢磨も見ていただきたいです。

フェスティバル・オーケストラ × 鈴木雅明
7/3(土)18:00 グリーンホール 大ホール
♪ モーツァルト:オペラ『ドン・ジョヴァンニ』 KV527序曲
♪ J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲第3番
♪ ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」
指揮:鈴木雅明
管弦楽:調布国際音楽祭フェスティバル・オーケストラ

── 今回は、優人さんがクリエイティヴ・パートナーを務める読響も参加することになったんですね。

ついに読響が調布に登場します! オーケストラがぎりぎり舞台に乗るくらいの大きな曲をということで、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」(組曲/1945年版)を演奏します。

── 1945年版を聴く機会はめったにないですが、取り上げた意図をお聞かせください。

1919年版はコンパクトにまとまっており、コンサートでもよく演奏されますが、45年版は少し長く、オーケストラの響きも拡大されています。ストラヴィンスキーが最後に作った版で、最終的な作曲家の意図と呼べるかもしれません。きちんとバレエを観た実感があり、重心が重くオーケストレーションも少し変わっていて面白いですから、きっとお楽しみいただけると思います。

── メノッティのオペラ《電話》は全一幕の英語のコミックオペラで、出演はソプラノ中江早希さん、バリトン大西宇宙(たかおき)さんのお二人です。

中江さんは精密なコントロールと明るい声で、作品にぴったりです。一方的にまくしたてるヒステリー役がうまい(笑)。大西さんもコミカルな演技が非常にうまくて、アメリカで活躍していることもあり、ミュージカル的な役には最適です。二人に“楽しく喧嘩”してもらいたいなと思います。字幕付きの上演です。

読響 × 鈴木優人
7/4(日)13:30 グリーンホール 大ホール
♪ モーツァルト:オペラ《フィガロの結婚》KV492序曲
♪ メノッティ:オペラ《電話》
♪ ストラヴィンスキー:組曲「火の鳥」(1945年版)
指揮:鈴木優人
ソプラノ:中江早希 バリトン:大西宇宙
管弦楽:読売日本交響楽団

── ほかにも魅力的な公演がたくさんありますね。

加羽沢美濃さんの「ジブリとディズニー音楽&絵本よみきかせコンサート」は、よく知られたメロディーをみんなで歌う楽しいコンサートです。朗読は音楽祭のアソシエイト・プロデューサー森下唯さんのお母さんで元アナウンサーの森下潤子さんです。
深大寺本堂での「鈴木秀美チェロ・リサイタル」は完売ですが、深大寺僧侶による天台聲明の詠唱があります。村治佳織さんのコンサートもすでに完売ですが、シネマをテーマにしたプログラムを私から特別にお願いしました。木嶋真優さんはフランクの大曲、ヴァイオリン・ソナタなどを演奏します。

── 手作りの感覚がある親しみやすい音楽祭ですが、ほかにはない特徴や楽しみ方についてお聞かせください。

無料公演がもう一つの目玉です。市民の方とか、桐朋学園の学生さんたちが演奏する「ミュージックサロン」をグリーンホール小ホールで開催します。グリーンホールテラスで、歌や管楽器の演奏でお客様をお迎えする「ウェルカムコンサート」も行います。演奏者とお客様の距離は取りますが、音楽のコミュニケーションは密にしていきたいと思っております。

── 優人さんが育った街でもある調布は、新宿から特急で2駅15分と近くて、会場となるホールも駅前でアクセスもいいですね。調布はどんな街ですか。

グリーンホールは駅から徒歩1分、たづくり くすのきホールも徒歩4分の近さです。駅前やホール周辺にはレストランや個性的なお店も多いです。調布は深大寺や神代植物公園など、花と緑と水に恵まれ、深大寺名物のお蕎麦も楽しめます。ちょっとした旅行気分も味わえますから、ぜひお気軽においでください。

── 最後にご来場されるお客様へのメッセージをお願いいたします。

このような時代だからこそ、生の音楽で心を潤していただき、日々の生活に一層弾みが付くように、私たちも心を込めて演奏したいと思います。みなさまのご来場をお待ち申し上げております!!

【Information】
調布国際音楽祭2021
2021.6/27(日)〜7/4(日)
調布市グリーンホール、調布市文化会館たづくり くすのきホール、深大寺 本堂、調布市せんがわ劇場

https://www.chofumusicfestival.com
エグゼクティブ・プロデューサー:鈴木優人
アソシエイト・プロデューサー:森下唯
監修:鈴木雅明
コミュニケーション・アドバイザー:平野敬子
主催:公益財団法人 調布市文化・コミュニティ振興財団、調布市


オープニングコンサート 森下唯&鈴木優人(ピアノ)
6/27(日)14:00 グリーンホール 大ホール
トーク&コンサート@せんがわ劇場 〜これからの音楽のかたち〜
6/29(火)11:00 せんがわ劇場
鈴木秀美 チェロ・リサイタル 【完売】
6/30(水)15:30 深大寺 本堂
村治佳織 ギター・リサイタル【完売】
7/1(木)19:00 たづくり くすのきホール
カルテット・アマービレ ピアソラ生誕100周年記念 ~アートと物語、そしてタンゴの世界へ
7/2(金)19:00 たづくり くすのきホール
キッズコンサート 栗コーダーカルテット
7/3(土)11:00 グリーンホール 大ホール
木嶋真優 ヴァイオリン・リサイタル
7/3(土)14:00 たづくり くすのきホール
フェスティバル・オーケストラ × 鈴木雅明
7/3(土)18:00 グリーンホール 大ホール
キッズコンサート たたいてあそぼう アンサンブルYTE(桐朋学園大学 打楽器科)
7/4(日)11:00 グリーンホール 小ホール
キッズコンサート 加羽沢美濃 presents ジブリとディズニー音楽&絵本よみきかせコンサート
7/4(日)13:00 たづくり くすのきホール
読響 × 鈴木優人
7/4(日)13:30 グリーンホール 大ホール
バッハ・コレギウム・ジャパン ~ブランデンブルク協奏曲300年記念~
7/4(日)18:00 グリーンホール 大ホール
※このほか、無料公演も予定されています。プログラム詳細は音楽祭公式ウェブサイトをご覧ください。

■チケットCHOFU 
◇TEL 042-481-7222(9:00~19:00第4月曜日休み・変則あり) 
◇インターネット予約(※要会員登録、24時間無休)
 https://www.e-get.jp/cul_bun/pt/
◇取扱い窓口 
・調布市グリーンホール  (9:00~19:00毎週月曜日休館、祝日の場合は翌日・変則あり) 
・調布市文化会館たづくり (9:00~21:30毎月第4月曜日および翌日休館・変則あり) 
・調布市せんがわ劇場   (9:00~19:00毎月第3月曜日および翌日休館・変則あり)
※緊急事態宣言中は17:00までとなります。

チケットぴあ
TEL.0570-02-9999 https://t.pia.jp
◇e+
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