作曲家・平井康三郎の名を冠した声楽コンクールが創設

 20世紀の日本を代表する作曲家の一人、平井康三郎(1910-2002)が亡くなって、今年で19年。たとえその名に馴染みがなくとも、〈平城山(ならやま)〉や〈とんぼのめがね〉〈ゆりかご〉〈スキー〉と代表作を挙げれば、日本人なら世代を超えて「ああ、あの曲の!」と思い当たる方も多いはず。

 一般には、特に歌曲の数々で知られる平井康三郎ですが、遺した楽曲は5千曲余りに上ります。日本語の美しさを際立たせたその作品の芸術性にいま一度目を向け、日本歌曲の普及と声楽家の育成を目指そうと、康三郎の息子でパブロ・カザルスの高弟としても知られるチェリストの平井丈一朗さんと、孫で指揮者の平井秀明さんが、今年「第1回平井康三郎声楽コンクール」(9月下旬〜10月中旬に開催予定)を創設します。

左:平井秀明 右:平井丈一朗

 先日、音楽ライターの宮本明さんとともに編集部も都内の平井邸を訪問し、お話をうかがいました。戦後は、テレビ放送草創期のNHKドラマなど劇伴の作曲も多く手がけた康三郎ですが(当時はドラマも生放送だったので大変だったとか)、全国の学校の校歌のほか、県民歌・市歌・社歌なども相当な数に上るそうです。母校の校歌が「そういえば平井康三郎作曲だったかも!」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。康三郎の出身地でもある高知の明徳義塾高校の校歌は、甲子園でもたびたび流れているので、耳にした方も多いかもしれません。丈一朗さんによれば、戦中も軍歌の作曲だけは依頼があっても断っていたとのこと。作曲の師匠としては家族に対しても厳しい康三郎でしたが、家庭ではとても明るいキャラクターの持ち主であったそうです。

  声楽作品だけでなく、ヴァイオリン協奏曲のように未だ初演されていない曲や未出版の作品も多いということで、今回のコンクールが稀代の作曲家の功績を明らかにするひとつの契機となることが期待されます。この日は、楽譜や昭和20年代に出版した作曲法の著書なども見せていただき、まさに戦後の日本音楽史の足跡を垣間見るような貴重なお話が次々に飛び出しました。6/18発行のぶらあぼ7月号インタビュー記事をお楽しみに!

康三郎のポートレートのほか、カザルス来日時の皇太子(現 上皇)ご夫妻との対面写真(丈一朗さんが同席)など、平井家にはお宝写真がいくつも飾られている。

【Information】
平井康三郎声楽コンクール
第1次予選(非公開) 2021.9/27(月)〜9/29(水) 新宿区立角筈区民ホール
第2次予選(非公開) 10/6(水) めぐろパーシモンホール(小)
本選(公開審査) 10/12(火) めぐろパーシモンホール(小)
入賞記念コンサート 2022.3/31(木) 渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール
出場応募期間 2021.6/15(火)〜7/30(金)
https://www.arioso.co.jp/vocal-competition