《蝶々夫人》の真実の姿をもとめて
プッチーニ《蝶々夫人》の、いわば「岡村喬生版」ともいうべきバージョンをご存知の方も多いだろう。2011年イタリア、トッレデルラーゴのプッチーニ・フェスティバルでの上演が日本の新聞・テレビでも大きく取り上げられた、岡村の改訂台本・演出によるプロダクションだ。邦題《マダマ・バタフライ》。
「1959年に初めて留学したイタリアで、日本人のバスなら必ず歌うからと勉強させられたのが、《バタフライ》のボンゾ役。楽譜を読んでいくと、意味のわからない歌詞があるんです。Kami sarundasico!」
第1幕で、ボンゾが姪の蝶々さんに向かって、お前は信仰を捨てて外国人と結婚するのかと罵る場面だ。
「当時習っていた先生に質問すると、不思議そうな顔で、日本人のお前がわからないのに俺がわかるわけないだろうと言う。これが日本語? ずっと考えてようやく思い当たったのが『猿田彦の神』。でも猿田彦は道案内の神、道祖神ですから、ここでボンゾが怒鳴る台詞としては不適当なんですけどね。プッチーニも台本作家も日本を知らないで書いていたのです」
他にも長崎の地名・大村が「オマーラ」になっているなど、十数箇所の明らかな誤認を正した改訂版を作成。これがプッチーニ・フェスティバル総監督のフランコ・モレッティの目にとまり、同フェスティバルでの上演につながった。作曲家遺族の判断で、最終的には改訂は三箇所に縮小されたが、それでも反響は大きく、イタリアのメディアはこぞって、「初めて正しい姿を教えてもらった」と好意的に報じた。
2015年9月、このプロダクションが、群馬交響楽団創立70周年記念として前橋と桐生で上演される。その全キャストを募るオーディションが、今年9月、東京と群馬で行なわれる。
「僕の手がけるオペラは絶対にオーディション開催が前提。そうじゃないとプロダクションに特定の色がついてしまう。出演料も払いますし、チケットノルマもなし。日本だと、これが特別なことのように言われますが、本来はそんなの当たり前の話。経済的に大変なのはわかるけれど、切符を売れる人しか使われなくなるのではオペラはダメになります」
理想の蝶々さん像は?
「いじらしさのある、日本の蝶々さん。でも、そのキャラクターと、プッチーニの望んだ絶唱はなかなか一致しない。どうしてもトスカみたいになってしまう。もしかしたら永久に出会えないかもしれませんね」
審査員として、上述のモレッティ総監督も来日する。イタリアでの再演となれば、チャンスもさらに広がる。われと思わん方はぜひ!
また、この4月には、恒例の『冬の旅』も。ヨーロッパから帰国後ずっと続けてきた、岡村のもうひとつの代名詞ともいうべきリサイタルだ。
「もう何度目になるのか。数えたことがないんですよ(笑)」
毎回さまざまなピアニストと共演するのも特色のひとつだが、その中で繰り返し共演している回数の多いのが、イェルク・デームス、高橋悠治、そして今回の渡邉康雄。数十年間継続してきた岡村にしか見えない『冬の旅』の世界が、きっとある。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2014年4月号から)
『冬の旅』 ★4月12日(土)・津田ホール Lコード:38474
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638
「マダマ バタフライ凱旋公演」オーディションと公演についての詳細はNPO法人
みんなのオペラ事務局ウェブサイト(http://www.minna-no-opera.com/)でご
確認ください。