長いキャリアでこそ表現できる音楽
数々の伝説的ピアニストから薫陶を受け、ウィーン楽派の伝統を今に伝えるイェルク・デームスが、今年も日本にやってくる。85歳の現在も精力的な演奏活動を続ける巨匠。今回の京都リサイタルでは、実に充実したプログラムでその音楽の神髄を示してくれる。
前半、バッハやモーツァルトに加えて演奏されるのは、ベートーヴェン最後のピアノソナタだ。これには期待せずにいられない。デームスは、ベートーヴェンのソナタの解釈について著書もあるほど、長きにわたってその世界の探求を続けてきた人だ。演奏活動70余年という人生の境地に立ってこそ表現できる深遠な音楽に、我々は一体何を見ることになるだろうか。そして後半は、ショパンのバラード第4番、シューマンの「クライスレリアーナ」と、詩情に満ちた作品が並ぶ。生の演奏に触れて初めてわかる、音楽から豊かに立ち上る空気感。気品とエネルギーに満ちたデームスの演奏を肌で感じ、その精神に触れる、貴重な機会だ。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ2014年3月号から)
★4月12日(土)・京都府立府民ホール・アルティ Lコード:57225
問:プロアルテムジケ03-3943-6677
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