東京バレエ団 × 金森穣による新作『かぐや姫』世界初演、音楽はドビュッシーを使用

 東京バレエ団が、演出振付家・舞踊家の金森穣に新作を委嘱し、この新作『かぐや姫』世界初演を含むミックスプログラムを11月6日、7日に東京文化会館にて上演する。リハーサル初日となった3月8日、同バレエ団芸術監督の斎藤友佳理と金森が登壇し、記者会見を行った。

左:金森 穣 右:斎藤友佳理  (C)Yuji Namba


 東京バレエ団にとって日本人振付家への委嘱作品は、19年10月に上演した勅使川原三郎の『雲のなごり』世界初演に続く。斎藤は今回の委嘱にいたった経緯を、「金森さんと長く温めてきた話」だと語る。
「バレエ団にとっての大きな目的の一つに、古典バレエをきちんと踊れるダンサーが育ってほしい、そのために何をするのか。また、バレエ団の創設者・佐々木忠次さんが1980年代から90年代にかけて、その時代のトップ振付家モーリス・ベジャールさん、ジョン・ノイマイヤーさん、イリ・キリヤンさんにオリジナル作品を創作してもらっています。佐々木さんの想いをどのように継いでいくか、常に考えてきました。
 東京バレエ団は海外公演に毎年行く恵まれた環境にありますが、ヨーロッパでなぜ日本人の作品がないのかよく質問されます。日本人のダンサーや振付家が活躍する今、才能豊かな振付家に委嘱できたらと金森さんのことはずっと頭の中にありました。
 穣さんを意識したのは、Noism設立時です。国内で文化芸術に理解が乏しい状況の中で、新潟市の公共劇場専属、日本では唯一の、初のプロのダンスカンパニーが設立されると聞き、まだダンサーだった私はすごく勇気をもらいました。その後、『NHKバレエの饗宴』での『solo for 2』(2012年)などの作品を観て、素晴らしい芸術家であり、演出家としてもいろいろなアイディアを持っている方だと感じました」

斎藤友佳理 (C)Yuji Namba

 金森は現在、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館の舞踊部門芸術監督、日本初の公共劇場専属舞踊団「Noism」(現Noism Company Niigata)の芸術監督を務め、次々に話題作を生みだし高い評価を得ている。17歳で渡欧し、ルードラ・ベジャール・ローザンヌでモーリス・ベジャールに師事、イリ・キリアンのNDT2などのヨーロッパのコンテンポラリーの巨匠作品に触れながら、ダンサー・振付家として活躍してきた。金森にとってベジャールのマスターピースを上演する東京バレエ団は「心理的に距離の近い舞踊団」だと言う。

「東京バレエ団のことは、私がルードラに行く前から知っていますし、18歳の時、ベジャール振付『M』初演を東京文化会館で観ています。東京バレエ団は日本におけるベジャールの舞踊団で、私がもしヨーロッパを離れて日本に戻ることがあったらここで踊るのかなと妄想していた時期がありました。ただ実際に振付の委嘱がくるとは想定していませんでした。
 新国立劇場で30分程度の小品を創ったことがありますが、2004年にNoismを立ち上げてから17年、外の舞踊団に振付をしたことはありません。初めてが東京バレエ団であることに縁を感じています。いま初日のリーサルを終え夢見心地です。
 Noismも活動継続の問題などでこれからは外部の振付家に委嘱をしたりなど、過去の15年とは少し違う方向に舵をとろうとしている時に、私自身も芸術監督であると同時に一人の芸術家として、自らの芸術的可能性を追求していきたい。そのことがNoismにとってプラスになる未来がとれなければ厳しくなるだろうと思っています。今こうして東京バレエ団に振付を始めたことが何よりもうれしいですし、今開いている可能性を満喫したい。そこに飛び込みたい」

金森 穣 (C)Yuji Namba

 新作のタイトルは『かぐや姫』。東京バレエ団では以前にもロシアの振付家アレクセイ・ワルラーモフの『かぐや姫』を上演。金森の師の一人であるキリアンも『輝夜姫』を手掛けている。
 斎藤は「自分にとってワルラーモフはバレエの父のように感じている存在です。それから時が経ち、いま新たな『かぐや姫』が生まれることに、何か運命のようなものを感じています。日本だけで通用するのではなく、海外でも理解し、愛される作品になってほしい」と願いを込める。

 作品の構想については金森は、「物語にのっとった、Noismでいう劇的舞踊的な、全幕もののストーリーバレエです。当然、東京バレエ団に振り付けるわけですから、女性のポワント(トウシューズ)、男性のダイナミックな群舞、バレエ団ならではのものを活かせる物語を選びました。自らの芸術性に挑みつつ、バレエに対する最大限のリスペクトを持って歴史に残る作品を創りたい」と意気込む。

 金森にとって作品を創る上で切っても切れないのが「音楽」。今回はドビュッシーを使用するという。
「ドビュッシーの小品にあたっていて気づいたのは、“光”。映像や視覚、ある種のビジュアル的なイメージを喚起する音楽が多く、光のメタファーとしてのタイトルが付く楽曲を作曲しています。聴き続けていると『かぐや姫』のあらゆるシーンにはまっていき、ドビュッシーだけに絞れるのではと思いました。
 『月の光』『海』『亜麻色の髪の乙女』など皆さんが聴いたことのある音楽を用いつつ、ピアノ版でもオーケストラにアレンジされたものも使用します。管弦楽からピアノ曲までバラエティーに富んだ内容です」 

(C)Yuji Namba

 台本は金森自身が書いたものを使用し、11月の上演では1幕のみを披露。創作にあたっては、先日、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した、Noism副芸術監督の井関佐和子がアシスタントを務める。

 「穣さんの頭の中では最後までできあがっているようで、それがどうも全3幕のようなのです(笑)。しかも1幕は、早く2幕が観たくてしょうがなくなるという状態で終わるのだそうです!」と斎藤。

 一方の金森は、「さまざまな関連資料を読んだうえで、台本は私が書いたオリジナルで、皆さんが知らない登場人物もでてきます。かぐや姫のキャラクター像は、やんちゃですごく芯が強い、でも繊細でとても美しくて儚い。矛盾するあらゆる要素を含んでいるような女性です。
 今回は1幕のみの上演ですが、全幕の『かぐや姫』は、未知の世界からきた女の子の成長を通して、彼女と関わるすべての男性たちが彼女と生きることによっていかに変わり、そのことで彼女が傷つき、この世を去るのか・・・また、この世とはいかなるものか、私とは誰か、に気づいていく。
 ここで語られること、届けられるメッセージは普遍的なものにしたい。普遍性といったときに、女性と男性、親と子供、あるいは嫉妬や死、そういう人間としてどこの国のどの民族、文化に属していても普遍的に抱えるであろう問いや苦悩を作品化したい。それが実現できれば世界中どこに持っていっても人の心に訴えかけるものになると信じています」と作品にかける想いを熱く語った。

(C)Yuji Namba

【Information】
東京バレエ団 × 金森 穣 新作『かぐや姫』世界初演 ほか
2021.11/6(土)、11/7(日) 東京文化会館

※他振付家の作品を含む、ミックスプロとして上演

東京バレエ団
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