石上朋美が新国立劇場《蝶々夫人》タイトルロール代役でデビュー

新国立劇場《蝶々夫人》公演レポート 

 2005年のプレミエ以来、再演を重ねる新国立劇場の《蝶々夫人》。栗山民也の演出は、風土のリアリズムからは敢えて距離を置き、色彩を絞り、空間を多く取る中で人間の「心の動き」を鮮烈に浮かび上がらせるもの。第1幕では、花嫁を囲む人々の立ち居地が綿密に計算され、彼女に対する世間の「注目度」がそのつど浮き彫りになる。また、第2幕の〈花の二重唱〉では、地上に積まれた薄紅色の大きな花びらと、天上からちらほら降ってくる花吹雪のコントラストが絶妙。ヒロインの心の昂ぶりが詩的なタッチで描かれていた。
 さてこの日、実は主演予定者が体調不良で降板というアクシデントがあったが、代役で登場した新進ソプラノが好演し、他のキャストと共に舞台を盛り上げたので、その旨をまずは特筆しておこう。当夜の蝶々さん役の石上朋美は今回が新国立初登場とのことだが、舞台裏の第一声から非常に落ち着いた歌いぶりを示して好感触。彼女の歌の美点は、何より確かな音程と豊かな声量、そして瑞々しい中&低音域にあるよう。15歳という蝶々さんの初々しさを声音の色合い一つで示し、名アリア〈ある晴れた日に〉も、領事の前に子供を連れだす決意のシーンも、自刃を控えて刀の銘文を静かに読み上げる一節も凛とした声音でドラマを深めていた。これからも注目されるべき逸材だろう。
 一方、男声の二人、ミハイル・アガフォノフ(ピンカートン)と甲斐栄次郎(シャープレス)は、共に豊かな声音で堂々と歌い上げ、無駄な動きをせず、役柄に相応しい所作のみを貫くことでドラマを地道に支えていた。また、スズキ役の大林智子も非常に丁寧な歌いぶり。演技の面でも蝶々さんへのシンパシーを鮮烈に打ち出せていた。
なお、これまた新国立初出演のケリー=リン・ウィルソンの棒では、第2幕後半でのスムーズな流れがことに印象的。スズキと男たちの三重唱から大詰めのヒロインの死まで、音楽を力強くまとめあげていた。
文:岸純信(オペラ研究家)
撮影:M.Terashi/TokyoMDE

■2013/2014シーズン
オペラ《蝶々夫人》/ジャコモ・プッチーニ
Madama Butterfly/Giacomo Puccini
全2幕〈イタリア語上演/字幕付〉

2014年1月30日(木)19:00、2月2日(日)14:00、5日(水)19:00、8日(土)14:00 オペラパレス
上演予定時間:約2時間45分(Ⅰ幕55分 休憩25分 Ⅱ幕85分)

指揮:ケリー=リン・ウィルソン
演出:栗山民也
美術:島 次郎
衣裳: 前田文子
照明: 勝柴次朗

【配役】
蝶々夫人:石上朋美(1/30)、アレクシア・ヴルガリドゥ(2/2、5、8)
ピンカートン: ミハイル・アガフォノフ
シャープレス: 甲斐栄次郎
スズキ: 大林智子
ゴロー: 内山信吾
ボンゾ: 志村文彦
ヤマドリ: 小林由樹
ケート: 小野和歌子

合 唱: 新国立劇場合唱団
管弦楽: 東京交響楽団

■チケット
S 21,000円 A 15,750円 B 10,500円 C 6,300円 D 3,150円 Z 1,500円
新国立劇場ボックスオフィス
03-5352-9999

新国立劇場
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/

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