共にチェコで学び、ピアノデュオとして活動してきた稲島早織と大石真裕が、全9回に及ぶコンサートシリーズ「ベートーヴェン:交響曲(ピアノ連弾版・四重奏版)・オリジナル連弾作品全曲演奏会」を11月22日にスタートさせる。最終回は2033年開催を予定している大規模プロジェクトとなる。

稲島と大石は、『スメタナ:連作交響詩「わが祖国」全曲』や『ドヴォルザーク:後期三大交響曲』などの録音で高い評価を受けてきた。今回、デビュー10周年の節目に立ち上げた企画は、ベートーヴェンの弟子であったカール・ツェルニー編曲による「ピアノ連弾版」と、同じくベートーヴェンと親交のあったヨハン・ネポムク・フンメル編曲による「ピアノ四重奏版」の両方で9曲の交響曲全曲を網羅するという前例のないもの。
10月上旬に都内で行われた制作発表会で、大石は「編曲作品そのものの評価が低い時期が長く続いていましたが、近年のインターネットの普及などにより、様々な作品の情報が知られるようになり、録音やコンサートでの実演機会も増え、再評価が進むとともに、認知度も大きく上がってきた」とこの企画実現の背景を紹介。コンクールで競われることが少ない分、センスや選曲が問われる分野でもあり、そこに積極的に取り組んでいくことを考えたという。
プロジェクトの柱の一つであるフンメル編の四重奏版は、ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロではなく、ヴィオラの代わりにフルートが入る。この特殊な編成により、原曲の持つ豊かな管弦楽サウンドがより忠実に再現される。フンメルが自身の手でピアノ四重奏版に編曲したのは、交響曲第7番まで。第8番と第9番は、後に出版社が別の編曲家に「フンメル風」に書かせたものであることがわかっている。このシリーズでは最後の2曲も含めて紹介することで、フンメルが達成できなかった想いを現代へと引き継ぐ。

シリーズの中では、演奏機会の少ないベートーヴェン自身のオリジナル連弾作品も紹介。弦楽四重奏曲の終楽章として書かれた「大フーガ」op.134の作曲家自身によるピアノ連弾版など、実演に接することができる機会は非常に貴重だ。また、作編曲も手がける稲島自身による企画内容にちなんだオリジナルのピアノ・ソロの作品も演奏されるという。
制作発表会の折には、交響曲第6番「田園」のピアノソロ版(カルクブレンナー編)、ピアノ連弾版(ツェルニー編)、ピアノ四重奏版(フンメル編)の聴き比べも披露された。興味深いことに、このプロジェクトが進行する9年の間には、ベートーヴェンの没後200年(2027)、フンメルの生誕250年(2028)、そしてツェルニーの没後175年(2032)と、関連する作曲家たちの重要な記念イヤーが含まれている。二人のピアニストによる、かつてない壮大なチャレンジ。“完走”を期待したい。
取材・文:編集部
【Information】
ピアノ・デュオ 稲島早織&大石真裕 デビュー10周年記念企画
ベートーヴェン交響曲(ピアノ連弾版・四重奏版)・オリジナル連弾作品 全曲演奏会
2025.11/22(土)14:00 サロン・テッセラ(三軒茶屋)
歌曲「君を思う」の主題による6つの変奏曲 WoO74
交響曲 第6番 ヘ長調 op.68「田園」(フンメル編曲によるピアノ四重奏版)
左手のためのエリーゼのために(稲島早織編曲によるピアノソロ)
交響曲 第3番 変ホ長調 op.55「英雄」(ツェルニー編曲によるピアノ連弾版)
出演/
稲島早織、大石真裕(以上ピアノ)
日野真奈美(フルート) 遠藤万里(ヴァイオリン) 高橋裕紀(チェロ)
問:カンフェティ 050-3092-0051
Email) concert.info.ask@gmail.com (Sleepers事務局)
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