
2019年に阪哲朗が常任指揮者に就任してから全国的にも注目を集めている山形交響楽団。一方で常に地元を大切にする活動を行い、あたたかい空気のなかで公演を行っている。今回の取材を行った9月6日の定期公演も満席で、当日のプレトーク、アフタートークも盛り上がりを見せ、改めて地域の人々との深いつながりを感じさせた。これからの展開がますます楽しみな山響の今後のラインナップについて阪に話を聞いた。
「やはり《蝶々夫人》はご注目いただきたいですね。近年山響は『演奏会形式オペラシリーズ』を行うことで、より音楽的に進化していますし、ご出演いただくソリストの皆さんが本当に素晴らしいので。蝶々さんに森谷真理さん、ピンカートンに宮里直樹さん、シャープレスに大西宇宙さんにお願いすることができました。すでに皆さんこのシリーズにご登場経験があり、今回も素敵な歌声を聴かせてくれることでしょう」
地域を大切にする山響は、オペラ公演においても地元の合唱団との共演を積極的に行い、オーケストラのカラーをさらに強いものにしている。今回も山響アマデウスコアや山形の県立高校が3校参加する。
「お客様や次世代を担う若い方々に本番の舞台を経験し、その喜びを味わっていただくというのは、これから音楽文化を盛り上げていくためには必要不可欠なことだと思っています。実際に演奏経験があることで、別の機会にも参加したいという意欲も生まれてきます。そして若い世代の皆さんがもっている力と歌声がまたオーケストラを盛り上げてくださるのです」
これまで同シリーズでは《ラ・ボエーム》、《椿姫》、《トスカ》を上演してきたが、今回の《蝶々夫人》は一層オーケストラが雄弁に語る部分が多い。
「オーケストラの密度の濃さとともに、日本の民謡がふんだんに取り入れられ、とてもオリエンタルな雰囲気が作り出されていますよね。これがまた山響に新しい色を加えてくれるのではないかと期待しています」
オペラだけでなく、コンサートシリーズも注目公演が目白押しだ。とくに今シーズンは「伝説・伝承= LEGENDS」をテーマとしており、今後もラデク・バボラーク(ミュージック・パートナー)や徳永二男、大植英次といったいまを代表する巨匠たちを招いての公演が予定されている。
「クラシック音楽は再現芸術ですから、それ自体が伝承なのですよね。音楽家は、前の世代から授かったものを、また次の世代へと受け継いでいかなくてはなりません。巨匠たちとの共演によって受けた感動を、良い演奏をすることで次へ繋いでいくということは大切にしていきたいところですね」
ますます進化を続けていく山響から目が離せなくなるが、今後はどのような活動を展開していくのだろうか。
「まずは『演奏会形式オペラシリーズ』の継続ですね。次の演目についてもほぼ固まっています。また新たな挑戦となる、かなり劇的な演目をお届けできると思いますのでぜひご期待ください。そして、2026年2月にはモーツァルトの《レクイエム》を鈴木秀美さん(首席客演指揮者)の指揮で演奏します。鈴木さんがこの曲を指揮するのは初めてということで、どんな音楽が生み出されるのか、私もとても楽しみにしているところです。また、同じ東北で活動している仙台フィルハーモニー管弦楽団との合同演奏会も継続していきたい企画の一つですね。
今後のオーケストラの方向性としては、色々な指揮者の方にお越しいただいた際に“引き出しがまた一つ増えたね”と言っていただけるようにしたいと思っています。それを強く思ったのは、先日キンボー・イシイさんが2年ぶりに出演された際にそうお話しくださったからなのです。さらに“こういうことをしたいと思わせるオーケストラになっている”というお言葉もくださり、とてもうれしかったですね。これからも関わっていただける皆様にそう言っていただけるよう、日々の公演とリハーサルを大切にしていきたいと思います。そしてその成果をお客様に届けられるようにしたいですね」
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2025年12月号より)
山形交響楽団 ~やまぎん県民ホールシリーズ2025 Vol.3~
演奏会形式オペラシリーズⅣ プッチーニ:歌劇《蝶々夫人》(全2幕/演奏会形式/日本語字幕付き原語上演)
2026.1/18(日)15:00 やまぎん県民ホール
指揮/阪 哲朗
舞台構成・演出/太田麻衣子
出演/
蝶々夫人:森谷真理、ピンカートン:宮里直樹、シャープレス:大西宇宙、スズキ:藤井麻美、ゴロー:髙梨英次郎、ボンゾ:三戸大久、ヤマドリ:深瀬 廉、ケート:石野真帆
合唱/
山響アマデウスコア
山形県立山形東高等学校音楽部・吹奏楽部
山形県立山形西高等学校合唱団
山形県立山形北高等学校音楽科・音楽部
管弦楽/山形交響楽団
問:山響チケットサービス023-616-6607
https://www.yamakyo.or.jp

長井進之介 Shinnosuke Nagai
国立音楽大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学に交換留学。アンサンブルを中心にコンサートやレコーディングを行っており、2007年度〈柴田南雄音楽評論賞〉奨励賞受賞(史上最年少)を機に音楽ライターとして活動を開始。現在、群馬大学共同教育学部音楽教育講座非常勤講師、国立音楽大学大学院伴奏助手、インターネットラジオ「OTTAVA」プレゼンターも務める。
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