藤田めぐみ(ピアノ)

理想の音で奏でる4つの大作ソナタ


 ニュージーランド生まれのピアニスト藤田めぐみは、英国王立音楽大学大学院を修了。ベーゼンドルファー国際ピアノコンクール第3位、モントリオール国際ピアノコンクール第4位、ショパン国際ピアノコンクールディプロマ賞など多数のコンクールで入賞を果たした。現在は日本を拠点に活躍している彼女が、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番、第32番とショパンのピアノ・ソナタ第2番、第3番という大プログラムに挑む。

 「私にとって大きな挑戦であったショパンの練習曲全曲の演奏会、そしてCDレコーディングを終えた後、次に何をすべきか…と考えていました。そんな時、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番をロンドンの演奏会で演奏し、久しぶりに弾いたその曲で、以前は出せなかった音が演奏できるようになったことに気がつきました。そしてせっかく弾くのであれば第32番を一緒に弾きたいなと。子どものころから、私にとってこの2曲はセットだと感じていました。ショパンのソナタをあわせたのは、第2番にベートーヴェンの第32番と非常に似たものを感じたためです。大変なプログラムではありますが、この“つながり”をぜひ皆様にも感じていただきたいのです」

 ショパンの練習曲を全曲演奏することに重要な意味を見出したように、ピアノ・ソナタも2曲を一緒にどうしても弾きたかったという。

 「これはあくまでも私の考えですが、第2番の終わりは、第3番へとつながるものだと思います。あの非常に不思議な楽章は“完結”ではなく、次への予感だと。もちろん2曲の成立時期は離れていますし、ショパンの意思がどうだったかはわかりませんが、第2番のあとに第3番がくるのは必然だったのかなと思いました」

 旧ソビエトの名ピアニスト、イリナ・ザリツカヤのもとで18年近く研鑽を積んでいた藤田だが、2001年に恩師が逝去したことで自分自身と深く対峙することになった。そうすることで自分の演奏、そして音を見つけ出すことができたという。

 「ずっと私を導いてくださっていたザリツカヤ先生が亡くなり、この先どう演奏したらいいのかと悩んでしまいました。そこから試行錯誤し、自分の頭の中で鳴っていただけの“理想の音”を実際に奏でることができるようになったのです。それが結実したのがショパンの練習曲全曲演奏でしたが、今回のリサイタルでも、私の理想とする音、そして楽曲の素晴らしさをお伝えできればと思います」

 自らと深く対峙して見つけ出した音で、作曲家の想いに寄り添い音を紡ぐ藤田のベートーヴェンとショパン。きっと新たな発見に出会えることだろう。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2021年3月号より)

藤田めぐみ ピアノ・リサイタル 【配信あり】
2021.3/27(土)14:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
4/4(日)13:30 大阪/ザ・フェニックスホール
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638
http://www.millionconcert.co.jp