山口佳子(ソプラノ)

いまが旬の実力派ソプラノ、待望のCDとリサイタル

C)FUKAYA Yoshinobu/auraY2

 2005年、故アルベルト・ゼッダ指揮で上演された藤原歌劇団のロッシーニ《ラ・チェネレントラ》で、クロリンダ役が輝いていた。すると、もうその年の夏には、ゼッダが校長だったペーザロのロッシーニ・アカデミー公演《ランスへの旅》で、難役コルテーゼ夫人を歌っているではないか。山口佳子というソプラノを強く意識するようになったのを思い出す。
「もっとゼッダ先生から学びたくて楽屋を訪ねると、アカデミーを受けるように勧められて」

 その結果、見事抜擢されたのだが、実は学生時代から錚々たる面々に揉まれ、切磋琢磨していた。
「東京藝大の修士論文が『ロッシーニの自作の転用についての考察』で、修了演奏会ではその例として、カンタータ《テーティとペレーオの結婚》を演奏しました。二重唱は中島郁子ちゃんに歌ってもらい、指揮は園田隆一郎君の日程が合わず、彼が“友だちに頼む”と言って山田和樹君になりました」

 05年からは江副育英会の奨学金や文化庁芸術家在外研修制度を利用し、4年近くイタリアで学び、オルヴィエート国際コンクールオペラ部門で優勝して、《ラ・ボエーム》のムゼッタを歌うなど経験を積んだ。帰国後もヨーロッパと行き来し、「フランスで《セビリアの理髪師》のロジーナ、トリエステで《カルメン》のミカエラを歌うなどしました」。

 甘く清楚な声とたしかなテクニックで、日本でも数々の主要な役を歌い、とりわけ20年は超多忙が予定されたところに、このコロナ禍。そこに持ち込まれたのがデビュー・アルバムの企画だった。
「自己紹介の意味もあるので、いままで大切に歌ってきて、いまの状態でいい表現ができる曲を選びました。イタリアの作品を中心に歌ってきましたが、最近はフランス作品の微妙なニュアンスや独特の色合いにも惹かれています。一番歌いたかったのは《タイス》、聴いてみて今の自分に合っていると思うのは《カルメン》のミカエラかもしれない」

 CDのタイトルはフランス語で鏡を意味する「le miroir (ミロワール)」。たしかに、山口の美質がさまざまに映し出されている。3月19日には王子ホールで、CDの収録曲を中心にプログラムが組まれたリサイタルも開催される。
「笑いの要素も加えるつもりで、1時間半ほど、音楽で心をやわらげてほしい」

 CDとの聴きくらべも楽しみだ。なぜかといえば、「CDでは録音だから可能なことに挑戦しました。たとえば、生の演奏会では決してやらないようなピアニッシモも表現しています」。
歌声も期待の幅もワイドレンジなのである。
取材・文:香原斗志
(ぶらあぼ2021年3月号より)

山口佳子 ソプラノ・リサイタル
2021.3/19(金)13:30 王子ホール
問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874
https://www.jof.or.jp

SACD『le miroir』
アールアンフィニ
MECO-1061 ¥3000+税
2021.3/24(水)発売