佐藤采香(ユーフォニアム)

ユーフォニアムの新たな地平を拓く逸材の2ndアルバムとライブステージ

C)Ayane Shindo

 ユーフォニアムの若きトップ奏者・佐藤采香が自身2枚目となるアルバム『軒下ランプ』をリリースする。レーベルは昨年末に始動した「MClassics」。

 2018年の前作『Beans』はユーフォニアムのオリジナル作品に的を絞った1枚だったが、今回は半分がバッハやベートーヴェン、メンデルスゾーンなど他の楽器のための作品。そこには、この2年間のスイス・ベルン芸術大学での留学成果が色濃く映っている。
「ユーフォニアムのための作品だけを演奏していたら、身につくものは少ないだろうと、ずっと前から考えていました。どの楽器を演奏していたって、どんな音楽でも演奏できますし」

 ベルンにはそんな彼女のための環境があった。
「好きなスタイルの音楽を勉強できるシステムが整っていました。現代音楽とバロックは必修。あとは録音や論文の資料を辿って、それを実践に移すリサーチの授業があったり」

 アルバム収録のバッハの無伴奏フルートのためのパルティータ(BWV1013)は、まさにそこでバロックの教授の教えを受けた曲なのだが、面白いエピソードがある。
「その先生はリコーダー奏者なのですが、最初の顔合わせでいきなりため息まじりに、『ユーフォニアムとサックスは、心底聴きたくないんだよね』と言われてしまって…。でもやれることは全部やっていこうと思って、徹底的に準備して初回のレッスンに行ったら、少しの沈黙ののち、『すべて正しい』と認めてくださいました。そこからは、『模倣でなく、ユーフォニアムの響きに合うように工夫してバロック音楽を楽しんで』と、丁寧に教えてくださいました」

 実力で楽器への偏見を改めさせたわけだ。
 アルバム・タイトルは作曲家・加藤昌則が佐藤のために書いた作品名。軒下にほわっと灯るランプのやわらかい光は、彼女にとってのユーフォニアムの音色のイメージなのだそう。
「奏者と作曲家が出会って作品が生まれ、ソロ楽器として発展してきたという歴史があるように、新しい曲を書いてもらうことが絶対に必要。人生をかけて取り組んでいきたいと思っています」

 2月から始まるリサイタル・シリーズでも毎年新作を委嘱していく計画だ(共演はアルバムでもピアノを弾いている清水初海。ゲストにハープの山宮るり子)。
 彼女の活動から生まれるのは作品だけではない。留学中、ユーフォニアムの代表的メーカー、ウィルソンに足繁く通い、改良を訴え続けた結果、佐藤の頭文字「AS」が付いたシグネチャー・モデルが発売されることになった。物静かな語り口だが、そのブレない熱意と本気が人の心を動かすのだろう。きっと、ユーフォニアムの新たな地平を拓く人だ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2021年2月号より)

*新型コロナウイルスの感染拡大による影響を鑑み、本公演は延期となりました。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

佐藤采香 ユーフォニアム・リサイタル
全5回シリーズ ユーフォニアムの地平線 vol.1 〜ハープ〜
2021.2/12(金)19:00 Hakuju Hall
【振替公演】2021.9/24(金)19:00 Hakuju Hall
問:コンサートイマジン03-3235-3777
http://www.concert.co.jp

SACD『軒下ランプ』
MYCL00004
妙音舎
¥3200+税
2021.1/22(金)発売