吉江忠男 バリトン・リサイタル2020 シューベルトのバラードと名歌曲集

シューベルトに挑む大ベテラン二人の至芸を堪能する

 今年80歳! フランクフルト市立歌劇場の専属として活躍し、パヴァロッティ、カレーラスらとの共演など豊富な経験を持つ吉江忠男がシューベルトの歌曲を歌う。演奏曲中、吉江自身が「挑戦」と心構えを吐露しているのが〈人質〉D246だ。太宰治が『走れメロス』の原作にしたことでも知られるシラーの詩による歌曲で、「バラード」と呼ばれる物語性のある構成の歌。演奏時間はなんと15分を超え、レチタティーヴォと旋律的なメロディが交代して進む長大な歌曲は、ほぼ「一人オペラ」といった様相。声楽技術は言わずもがな、歌を通してのドラマ表現が重要な鍵となる難曲だ。

 共演ピアニストは、こちらも87歳の大ベテラン小林道夫。音楽性や技術の獲得は年齢を問わないかもしれないが、長い活動のなかで身につけた経験・知見は、若い音楽家がどんなにあがいても得ることのできない宝だ。半世紀を超える交流で気心知れた二人の、まさに至芸をしっかりと味わいたい。
文:宮本 明
(ぶらあぼ2020年10月号より)

2020.11/21(土)14:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
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