小澤征爾が音楽塾のオペラを5年ぶりに指揮

 小澤征爾がオペラを通じて若手音楽家を育成することを目的に、2000年から始めた小澤征爾音楽塾。2014年には《フィガロの結婚》を上演する。
 音楽監督と指揮を務める小澤征爾と、演出家デイヴィッド・ニースらが、12月19日(金)、東京・上野にある東京文化会館で記者会見を行った。
 
 今回上演される《フィガロの結婚》は、通常のオペラ上演とは異なり、「オペラ・ドラマティコ」と銘打たれている。演出家のデイヴィッド・ニースは1980年以来長い間小澤征爾、ボストン交響楽団とのコラボレーションで今回と同様の「オペラ・ドラマティコ」の形式でオペラを上演してきた。また、小澤征爾音楽塾でもいくつかのオペラを手がけてきたように、いわば小澤にとっての盟友だ。
 指揮は、チェンバロ奏者でもある指揮者のテッド・テイラーとの振り分けとなる。

■オペラ・ドラマティコ形式での上演

小澤:「1980年にタングルウッド音楽祭でボストン交響楽団とデイヴィッド・ニースの演出で《トスカ》をやった。コンサート形式だけど、歌手はただ立って歌うだけでなく、芝居付きでやった。そうすると、お客さんもオペラの動きがわかる。オペラにあまりなじみのないボストン交響楽団にとっても、まったくはじめての経験だった。翌年からずっとその形で続けた。このやり方が世界的に流行し、サントリーホールのホールオペラ、新日本フィル、その他、海外でもいろいろとやられるようになった」

デイヴィッド・ニース:「今現在、米国では、ロス・フィルやニューヨーク・フィルもやっている。音楽と演劇の世界を融合させるすばらしい上演形式だと思う。オペラ・ドラマティコという名前は、作曲家のルチアーノ・ベリオからインスピレーションを受けた。ある夏、彼がタングルウッドに来て《フィデリオ》をやった。ベリオは近々、フィレンツェ五月祭監督に就任することが決まっていたが、彼がわれわれスタッフを五月祭に呼んでくれた。オペラ劇場のテアトロ・コムナーレではじめてこの形式での上演をやったが、これをベリオが高く評価してくれた。オペラ劇場にもかかわらず、室内楽的な近距離での上演ということで感動してくれた。そのことからオペラ・ドラマティコという命名をした」

小澤:「この形式での上演は、見ているお客さんがオペラの筋がちゃんとわかって、音楽が一番近い状態で伝わる」

デイヴィッド・ニース:「オペラはストーリーを知ってもらうのが重要。歌い手が一列に並ぶだけでは、登場人物の心の動きまでわからない。物語を伝えるには、登場人物、主人公から見た物語を伝えなければならない。音楽も重要で、物語の置かれた場の空気を、ピットを挟むのでなく、室内楽のように近距離で伝える。音楽で物語を語る。今現在の主な仕事場はオペラハウスだが、ピットと舞台、歌手との距離感を感じている。オペラ・ドラマティコは、必要に迫られて始めた形式だったが、結果としていいものができたと思う。オペラだけでなく、バッハ《マタイ受難曲》も同様の形でやったが、例のない選択だったが、いまでは世界中でこの形で上演している」

■音楽塾にとってのオペラ・ドラマティコ

小澤:「歌手が歌うだけでなく、そこで演技もしている、ただの伴奏でなく、オーケストラがお客さんから見える。塾生もただ演奏するだけでなく、歌手が歌い演じているのを、目で見て肌で感じることができる。そこに音楽を入れていける。歌手と同じ面で演奏できる」

デイヴィッド・ニース:「塾のプロジェクトを重ねるうちに、室内楽を聴いているような近距離のいい関係を保つことができたと思う。近距離であるからこそ、血が騒ぐようなドラマを感じてもらえた。歌手もオケも自分たちの演奏に集中でき、演出家も邪魔をすることがない。

小澤:「世界中からすばらしい歌手を呼ぶ、しかし、そこで演奏しているのはアジアの若い音楽家、そういう僕のやりたいと思ったことにローム株式会社の佐藤研一郎社長(当時・現名誉会長)が賛同してくれた。オペラの教育をしたいという気持ちと彼の気持ちが一致した。先生だったカラヤンからオペラとシンフォニーは車の両輪だと言われた。無理矢理オペラをやらされた。そのときの印象がつよいので、若い演奏家にソロ、室内楽、シンフォニーだけでなく、オペラをやってほしいと思っている。小澤国際室内楽アカデミー奥志賀、スイス国際音楽アカデミーで室内楽の勉強もしてきた。そういうものも、デイヴィット・ニースの言う室内楽的なオペラというものに通じるものがある」

■指揮の振り分けについて

小澤:「《フィガロの結婚》は長い。全部指揮するのはたいへん。チェンバロのテッド・テイラーが指揮もうまい。彼が指揮してくれることになったけど、デイヴィット・ニースがうまい演出を考えてくれた。チェンバロの前にテッド・テイラーがいて、その横に僕も座ってて、彼がチェンバロ弾いたり指揮した後に僕が指揮したり、僕が指揮した後に彼が指揮したりと、漫才でもしているみたいに、演出家がおもしろいこと考えてくれている。試しにやってみようということになった。たぶんうまくいくだろう」


■小澤塾をやってきた手応え

小澤:「すばらしくオペラに対応できる、ものすごい演奏家が出てきている。指揮者については、腕をうごかしてコミュニケーションするのは日本人はあってると思う。ただ、若い人を呼んできてオペラを教えるというのはまだできない。アシスタントを連れてくるというのはこれまでもやってるけど。『ローム ミュージック ファンデーション 音楽セミナー』の指揮者ゼミは、オペラとは密接には関係してない。僕は幸運だった。カラヤン先生からどやされながらやって、それで教えてもらったけど、そこで我慢したのがよかった。オペラを勉強するのはたいへん」

デイヴィッド・ニース:「小澤さんをみていると、彼は世界市民だと思う。日本で学んだけど、その教育は世界の教育を受けたのと同じ。オペラの世界で活躍するためには、海外の経験が必要。若い日本人だけでなく、アジアの人々、みな、アメリカやヨーロッパで学んでいる。そのことで精神的なものも芸術面、人間関係も構築できる。それが重要だと思う」

■今後の予定

小澤:「完全な舞台上演形式のフルオペラをやってほしいという要望がなかにはあるけど、基本的には今の形を続ける。それが塾としての基本」
(2013.12.19 東京文化会館 Photo:M.Terashi/TokyoMDE)


小澤征爾音楽塾2014
オペラ・プロジェクトⅩⅡ《フィガロの結婚》
★2014年3月16日(日)15:00・よこすか芸術劇場
3月19日(水)18:30・愛知県芸術劇場
3月22日(土)15:00・びわ湖ホール
3月26日(水)18:30・東京文化会館
問:小澤征爾音楽事務所東京公演事務局 0570-084-735

チケット ローソンチケット:http://l-tike.com/classic/ongakujuku/

■小澤征爾音楽塾
http://www.ongaku-juku.com

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★資料★
●小澤征爾とデイヴィット・ニースによるボストン交響楽団とのコラボレーション・オペ

1980 トスカ/タングルウッド
1981 ポリス・ゴドウノフ/タングルウッド
1982 フィデリオ/タングルウッド
1983 オルフェオ/タングルウッド
1984 ベアトリスとベネディクト/タングルウッド
1985 マタイ受難曲/タングルウッド
1990 スペードの女王/タングルウッド
1991 スペードの女王/ボストンとカーネギーホール
   サロメ/ボストン
   イドメネオ/タングルウッド
1993 ファルスタッフ/ボストン
1995 道楽者のなりゆき/ボストン
1998 蝶々夫人/ボストン