鮮烈な才能とのコラボがもたらす名手の深化
ヴァイオリンの世界的名手・庄司紗矢香が、アイスランドの精鋭ピアニスト、ヴィキングル・オラフソンとリサイタル・ツアーを行う。庄司は「2013年以来毎年共演している」彼について、「ごく自然に投合しました。彼は分析力と主観性のバランスが絶妙で、フレキシビリティもあります」と語る。18年のN響定期ではメンデルスゾーンの二重協奏曲で共演しているが、この鮮烈な才能との日本初デュオは実に興味深い。
「今回はまずバルトークのソナタ第1番を弾きたい!との気持ちが強く、ならばピアノはヴィキングルがふさわしいと思いました。そこで彼との共演にはバッハも面白いと考え、話し合ってソナタ第5番を選びました。さらに最後のブラームスのソナタ第2番は彼が要望した曲です」
最初のバッハのソナタ第5番は全楽章が短調の作品。
「昨夏に6つのソナタ全曲を勉強し、最も心打たれたのがヘ短調の第5番。深みがあって6曲の中でも特別なものを感じます。特に第1楽章はそうですね」
モダン楽器でのバッハ演奏にも、彼女ならではの思いがある。
「バロック弓や古楽奏法を学んだこともありますし、ノリントン指揮のバッハの協奏曲をノン・ヴィブラート&超快速テンポで弾いたのも貴重な経験でした。ただ、現段階で考えるのは『奏法の裏にある普遍的なものに目を向けていきたい』ということ。現代楽器を弾く演奏家の視点、21世紀の視点で、現代のお客様にその音楽の持つ意味を伝えていければと思っています」
バルトークは庄司がハンガリーまで行って名教師フェレンツ・ラドシュに音楽言語を学んだ作曲家。今回のソナタ第1番への期待も大きい。
「バルトークの民俗的な要素、独特の和声感、ヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ的な要素等が総合された、大変な名曲だと思います。とりわけ重要なのは歌謡性。複雑な内容を突き詰めていくと、構築はクラシックで、言葉のリズムや民謡、メリスマの要素も浮かび上がってきます。また第2楽章の神秘性にも魅せられます」
後半はプロコフィエフの「5つのメロディ」とブラームスのソナタ第2番。
「プロコフィエフは色彩感を盛り込むための選曲。原曲の無言歌にも惹かれますし、民俗的な要素もあります。ブラームスの2番は、2001年録音の『ルーブル・リサイタル』にも収録した、長く弾いている作品。幸福期に書かれた、自然や光、未来への希望を感じるソナタで、特にルーブルの時はそう感じていました。しかし今になると、第3楽章は後ろを見ていて、最後に『永遠にさよなら』と言っている気がします」
彼女は今年1月のエサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管との共演で大きなインパクトを受けたという。
「“自然に降りてくるものに委ねることで深く考えさせられる”といいますか、演奏者同士にはわかるケミカルなものがあり、その波長によって説明できない何かが起こる。サロネンとの共演がそうでした」
今回のデュオも、その“何か”への期待に充ちている。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2020年9月号より)
庄司紗矢香&ヴィキングル・オラフソン デュオ・リサイタル 日本ツアー
2020.12/23(水)19:00 サントリーホール 他
問:ジェスク音楽文化振興会03-3499-4530
http://www.jesc-music.org
※日本ツアー、チケット発売日(調整中)の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。