ベートーヴェンというひとりの偉大な人間に近づきたい
〜この秋、11年ぶりに「ハンマークラヴィーア」ソナタに挑む〜
辻井伸行がベートーヴェン生誕250年を記念したツアー「プレミアム・リサイタル 2020」で、名曲と称される人気の高いピアノ・ソナタ3曲を披露する。コロナ禍の時代にあって演奏会が中止や延期になるなか、彼はどのように自分をコントロールしたのだろうか。
「自粛中は“音楽家として何ができるか”と日々考えていました。やはり音楽をみなさまに届けることが大切だと思い、YouTubeチャンネルを開設したりオンライン・コンサートを開催したりしました。練習していると運動不足になりがちなので、縄跳びで気分転換をしました」
今回のプログラムで印象的なのは「ハンマークラヴィーア」だが、これは当時20歳だった辻井伸行がヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールの第1次予選で演奏し、審査員と聴衆から熱い支持を受けた作品だ。
「このソナタを人前で弾くのは11年ぶり。体力と集中力が必要な大曲ですが、久しぶりなので新たな気持ちで取り組んでいます。実はクライバーン・コンクール後にドイツのドルトムントでこのソナタを演奏したことがあるのですが、ぼくはまだ無名でしたので、本場の聴衆に認めてもらえるか、大きなプレッシャーを感じたことを鮮明に覚えています。これが後期の作品なので、中期の『月光』と『ワルトシュタイン』を入れました。ベートーヴェンの中期と後期の作品の対比や変容などを楽しんでいただければと思います」
辻井伸行は海外公演も多く、各地で作曲家ゆかりの地などを巡って大きな感動を得ている。
「昨年、ボンのベートーヴェンの生家を訪れ、耳が不自由になってから使用していたピアノに触れる機会がありました。鍵盤に指のくぼみがあり、振動だけで必死に音を感じようとしていたのがわかり、音楽に対する姿勢に強い尊敬の念と新たな感銘を受けました」
今回のツアーでは、日本各地の優れた音響を誇るホールが厳選されている。辻井伸行は常に「ベートーヴェンは障害があってもそれを乗り越え、すばらしい作品を残してくれた。その魂に寄り添い、作品の真意を表現し、聴衆の方々とともにベートーヴェンというひとりの偉大な人間に近づきたい」と語っている。
「『ハンマークラヴィーア』は、ぼくの出発点となったコンクールで演奏した思い出深いソナタ。20歳で演奏するなんて、いまから考えると“なんて無謀だったんだろう“と思いますが(笑)、10年経って表現や解釈がより深くなったと考えています。その思いをベートーヴェンの心に寄り添い、精一杯集中力を高めてピアノと対峙します。みなさんとすばらしい時間を共有できれば幸いです」
取材・文:伊熊よし子
【Information】
辻井伸行 プレミアム・リサイタル 2020
=ソーシャルディスタンス公演=
◎2020.10/8(木)14:00 浜離宮朝日ホール
問:チケットスペース03-3234-9999
https://www.ints.co.jp/tsujii-premium-social.html
◎2020.10/9(金)18:45 三井住友海上しらかわホール
問:東海テレビチケットセンター052-951-9104
https://www.tokai-tv.com/events/tsujii-premium-social/
◎2020.10/14(水)19:00 紀尾井ホール
問:チケットスペース03-3234-9999
https://www.ints.co.jp/tsujii-premium-social.html
◎2020.10/15(木)19:00 紀尾井ホール
問:チケットスペース03-3234-9999
https://www.ints.co.jp/tsujii-premium-social.html
◎2020.10/21(水)19:00 札幌コンサートホール Kitara
問:オフィス・ワン011-612-8696
http://www.officeone.co.jp/topics/index.html#news1469
※このほか、大阪・浜松・松本でも開催予定
辻井伸行公式サイト https://avex.jp/tsujii/
【CD】
ベートーヴェン:《悲愴》《月光》《熱情》
辻井伸行(ピアノ)
AVCL-25950 ¥3,300(税込)
ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13「悲愴」
ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27-2「月光」
ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57「熱情」