横山 奏(指揮)

音楽を心から楽しみ、謙虚に向き合う若きマエストロ


 2018年の第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉は、沖澤のどか、横山奏、熊倉優という、今後日本の指揮界を担っていくであろう、注目の俊英たちが上位3人に並んだ。このとき「聴衆賞」を受賞したのが第2位の横山奏。本選のエルガー「エニグマ変奏曲」での高い集中力と心のこもった演奏で、会場の聴衆の心をつかんだのである。

「幼いころから音楽に接していましたが、専門教育を受けたのは遅く、ピアノを習い始めたのは小学5年生、中学で吹奏楽部の打楽器、大学入学のときには音楽教師を目指していました。声楽専攻でしたが、3年生から指揮専攻に転科しました。卒業後は桐朋学園と東京藝大大学院で高関健先生に師事し、藝大ではイギリスの名指揮者ダグラス・ボストック先生にも師事しました。指揮者を目指したのは遅かったのですが、打楽器も声楽も、指揮者にとって役に立つスキルになっています」

 そんな横山が、毎年七夕に行われる「イマジン七夕コンサート」の指揮を務める。横山は15年から2年間、東京シティ・フィルの研究員として現場の経験を積んでいる。本公演には同楽団が出演するため、横山にとっては嬉しい“恩返し”の場にもなる。

「主催公演のリハーサルと本番に立ち会う研究員を、楽団員のみなさんも信頼してくださり、本当にいい経験になりました。公演での共演は初めてということで、もちろん思い入れもあって楽しみですし、2年前より少しは成長した姿を見せられる機会になればいいなと。ただ、このコンサートは曲が多いので、実際には感傷に浸る余裕はないと思いますが(笑)」

 たしかに、この七夕の公演はコンサートイマジンの看板企画で、すでに10曲以上が予定されている。共演は山田武彦(音楽監督/編曲/ピアノ)、伊藤晴(ソプラノ)、中鉢聡(テノール)、岡田将(ピアノ)で、テーマは『名曲で巡る「120分世界一周」』。

「山田武彦さんはメドレー曲の編曲に、『ラプソディ・イン・ブルー』のピアノも務め、本当にアイディア豊富で多才な方です。ソリストの皆さんとは初共演ですが、すばらしい方々ばかりで嬉しいですし、刺激を受けて自分の糧にもなります。演目はアメリカものにヨーロッパの多彩な名曲集です。オペラも大好きなのでアリアは本当に楽しみ。歌と共演できる喜びは大きく、今後も機会があれば積極的にやりたいです」

 他者との共同作業を重視し、自身の指揮の理想を「終演後にお客さんが『今日はオーケストラがすごくよかった!』という感想になるのが一番いい。『そういえば指揮者は誰だっけ?』というくらいに(笑)」と語る横山。だが、謙虚に音楽を追求する彼の名は、自ずと“知れ渡っていく”ことになるだろう。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2020年5月号より)

第16回イマジン七夕コンサート 名曲で巡る「120分世界一周」
2020.7/7(火)18:30 サントリーホール
問:コンサートイマジン03-3235-3777 
http://www.concert.co.jp