【CD】シューベルト:グラーツ幻想曲/高橋アキ

高橋アキのシューベルト・シリーズ第7弾。今回はまず1969年に発見された「グラーツ幻想曲」がポイントとなる。別人の作の疑いもある若き日の曲だが、この演奏ではチャーミングで優しい佳品として耳に届き、喜多尾道冬氏が解説で示した「即興曲の前身」の風情を実感させる。即興曲D899もインティメイトな魅力が表出され、一音一音が明晰でいながら胸に深く染みる。なかでも有名な第3曲は孤独感が滲み出るかのよう。これは抑揚や強弱の変化が激しいパフォーマンスではなく、“内的情緒”の世界へ導くパーソナルな演奏というべきか。傾聴に値する一枚。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2020年5月号より)

【information】
CD『シューベルト:グラーツ幻想曲/高橋アキ』

シューベルト:ヒュッテンブレンナーの主題による13の変奏曲 D576、幻想曲「グラーツ幻想曲」D605A、4つの即興曲 D899

高橋アキ(ピアノ)

カメラータ・トウキョウ
CMCD-28372 ¥2800+税