三界秀実(クラリネット)

クラリネットの響きの違いを存分に味わえる一枚

C)Studio☆Di:VA

  東京都交響楽団の首席クラリネット奏者として活躍し、「トリトン晴れた海のオーケストラ」にも参加、また、ソロでもアンサンブルでも活動を続ける三界秀実が2枚目となるソロ・アルバムをリリースする。題して『アーベントリート』。ロマン派の作品を中心に収録した。

「このアルバムを作ろうと思い立ったきっかけは、自分が使っている楽器の今の状態を“音”として残しておきたいということからでした。そこでコンサートでも共演しているピアニストの加藤洋之君ともいろいろと相談をして、シューマンを軸にしたアルバムが作りたいと考えて、レパートリーを決めていきました」

 収録曲はシューマンの「幻想小曲集 op.73」「アーベントリート」、デンマーク出身の作曲家ヴィンディング「3つの幻想的小品」、そしてシューベルトの「アルペジョーネ・ソナタ」という魅力的なラインナップである。この中で「アルペジョーネ・ソナタ」(三界編)はバセット・クラリネットで演奏されているが、録音としては世界的に見ても珍しいものである。

「ふだん使っている楽器はバックーン社製のクラリネットなのですが、実はバックーン社でバセット・クラリネットの試作品を作るという話があり、その楽器が借りられたので、じゃあ、シューベルトの『アルペジョーネ』に取り組もうと思いました。加藤君からも『アルペジョーネそのものは、現在はもうほとんど演奏されない楽器なのだから、新しい楽器で挑戦するのも面白いのでは』と後押しされました」

 通常のクラリネットより低音が3度低い音まで出るバセット・クラリネットによって、シューベルトの思い描いていた世界がより身近になったような気がする。ヴィンディングも19世紀後半としてはやや保守的ながら、香気溢れる作品で、なかなか聴くことができないレパートリーとして貴重な録音となる。

「もうひとつの特徴としては、マスター音源がDXD384KHzで録音されていることです。これはハイレゾ音源のフォーマットとして知られていますが、通常のCDで聴いても、その音質のクオリティの違いは分かるはず。ぜひ他の録音と聴き較べをしてほしいです」

 ピアニストの加藤とは高校時代からの友人で、しかも誕生日が1日違いだという。「お互いの個性はかなり違っていて、こちらが音楽的に激しく動いても、彼はしっかりと落ち着いて受け止めてくれる感じがあります」。
 そんな大人なデュオによるロマン派のクラリネット曲の世界には、新しい発見が満ちている。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2020年1月号より)

CD『アーベントリート』
マイスター・ミュージック
MM-4071
¥3,000+税
12/25(水)発売