トム・チウ(ヴァイオリン/フラックス弦楽四重奏団)

現代を代表するクァルテットが日米の最近作にフォーカスする

左より:トム・チウ、コンラード・ハリス、マックス・メンデル、フェリックス・ファン

 100曲以上の幅広いレパートリーを持ち、2015年の初来日以来、その瑞々しい演奏で聴衆の心をつかんできたフラックス弦楽四重奏団。神奈川県民ホール開館45周年記念の一環として、一柳慧プロデュースにより2回の演奏会を開く。来日を前にヴァイオリンのトム・チウに取材を行った。

 初日の1月11日は、〈系譜〉と題してアメリカの作曲家を中心とした選曲で聴かせる。

「15年の来日コンサートではナンカロウの弦楽四重奏曲第1番が温かく受け入れられたので、今度は第3番を演奏することにしました。次にごく最近の音楽として、エリザベス・オゴネクの『ランニング・アット・スティル・ライフ』と私(トム・チウ)が作曲した『レトロコン』、そしてジャズの巨匠でもあるオリヴァー・レイクの作品で17年に録音した『ヘイ・ナウ・ヘイ』も組み込みました。最後に一柳慧さんの提案でバルトークの弦楽四重奏曲第5番をプログラムに入れています」

 気鋭の作曲家オゴネクの作品は「生命力とコントラストに満ちている」楽曲で、13年初演後に改訂された新しい形でお目見えとなる。

 1月18日は〈一柳慧 弦楽四重奏曲 全曲演奏会〉。日本初演の第5番を含めた全6曲が演奏される。

「一柳さんの作品のインパクトは次世代にも広がっていて、様々な若い日本人作曲家に影響をもたらしました。東西の広範な音楽的要素を結びつけることに長けていて、そのことが、彼の調和のとれた和声法とモティーフの扱いを生み出しているのです。一柳さんは初期の『フルクサス』(Fluxus:1960年代アメリカの実験的芸術運動)にかかわっていたのですが、フラックス(Flux)という私たちの弦楽四重奏団名はフルクサスに触発されたものです」

 弦楽四重奏団として高い水準を保つには、「4人の音楽性を一致させ、音楽表現の共通のあり方を模索していくことが必要」で、「現代音楽は音楽家同士の関係性をはるかに豊かでダイナミックなものに発展させた」という。クァルテットの各奏者は、リーダーやその他の役割を交代で担当しつつ、新たなレパートリーに挑戦し、若手作品の初演にも積極的に取り組んできた。

「最近ではアメリカの作曲家ランド・シュタイガーとジョージ・ルイスの新作を演奏し、2021年にはドイツの作曲家ハンス・タメンによる電子音響作品を初演します。ニューヨークなどで展開されるアヴァンギャルド・ジャズや即興の最新情報も常にチェックしています」

 知的好奇心を刺激するフラックス弦楽四重奏団のコンサート。現代を生きる音楽が奏でられる瞬間にぜひ立ち会いたい。
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ2019年12月号より)

一柳 慧プロデュース フラックス弦楽四重奏団
現代を生きる音楽Ⅱ ーNew Sounds from NYー
《系譜》 Family Tree of American Composers 
2020.1/11(土)15:00
《一柳 慧 弦楽四重奏曲 全曲演奏会》 
2020.1/18(土)15:00
神奈川県民ホール(小)
問:チケットかながわ0570-015-415  
https://www.kanagawa-kenminhall.com/