砂川涼子 ソプラノ・リサイタル

深まりをみせる表現力と意欲的な選曲

C)Yoshinobu Fukaya

 初々しさは変わらないのに、レパートリーはどんどん広がるソプラノ、砂川涼子。藤原歌劇団のプリマドンナとして、日本中で爽やかな歌声を披露し続ける彼女は、筆者が常に注目する歌手の一人である。

 砂川の舞台は毎回が「密かな驚き」に満ちている。キャリアのスタート時は、きりっとした響きで処女性を表現するプッチーニの娘役で人気を得たのに、その個性をそのまま保ちながら、今では声を操るロッシーニやバロック・オペラに向かうという、オペラ界の常識とは正反対のコースを歩んでいるのだから。この12月のリサイタルも、まさしく、彼女の並外れた能力を実証するものになるだろう。

 声を知る第一人者たる指揮者、園田隆一郎をピアノ伴奏に迎え、砂川が歌い上げるのは、まずはヴィヴァルディの耽美的な二つのアリア。次に、生誕100年の加藤周一の詩による〈さくら横ちょう〉の競作2曲 ―中田喜直と別宮貞雄― とロッシーニのコミカルな歌曲集。続いてコロラトゥーラの技を聴かせるグノー《ファウスト》の〈宝石の歌〉、プッチーニのオペラから乙女のひたむきな心を歌い上げる二つのソロなど、曲の一つひとつが、可憐でも一本芯の通った響きを、異なる味わいで届けるための「声の色見本帳」になっているのである。

 意欲的な選曲を打ち出す歌手は多いが、それで成功する人はごく少ない。弱音を吐かない砂川の、勁い心根が育んできた「歌の大樹」の在り様を、ぜひとも体感してみて欲しい。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2019年11月号より)

2019.12/5(木)19:00 紀尾井ホール
問:AMATI 03-3560-3010 
http://amati-tokyo.com/

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