パスカル・ロジェ(ピアノ)

フランス作品に潜む絵画的な色彩感を大切にしたい

C)武藤 章

 フランス音楽が内包する優雅、繊細、洒脱、色彩、精巧などの表現をユーモアとウイット、エスプリを生かしながら奏でるフランスのピアニスト、パスカル・ロジェ。彼は若い頃、ドイツ・オーストリア作品を中心に演奏していた。しかし、近年はフランス作品に回帰して録音も行い、自国の音楽で自身のアイデンティティを明快に表現している。

「昔は構成力が明確でテクニックを存分に示すことができるドイツ作品に興味を抱き、その深遠さにも魅了されていました。やがて自分の内面と対話するようになると興味の対象が変化し、フランス作品に戻ってきました。子どものころからドビュッシー、ラヴェル、フォーレなどの作品に親しんできましたから」

 9歳のときにはフランスを代表する名ピアニストで名教授、マルグリット・ロンの前でドビュッシーの「前奏曲集」第1集の〈雪の上の足あと〉を弾く機会に恵まれた。

「先生は私が2小節弾いただけで演奏を止めて、“雪の冷たさが表現されていない、もっと冷たく”とおっしゃったのです。技巧的なことは何もいわず、イメージを抱くこと、自分なりの演奏を心がけることを指摘されました。この経験が私のフランス作品を演奏するときの原点となり、いまでもイメージを大切にしています」

 来日公演のプログラムは前半がショパンとフォーレの「ノクターン」、後半がドビュッシーとラヴェルの作品を組み合わせている(9/26公演のみサティ、ラヴェル、プーランク、ドビュッシーの組み合わせ)。

「フォーレの『ノクターン』は難度の高い作品で聴き手も集中しなければならないため、ショパンと交互に演奏して『ノクターン』のおだやかさを味わっていただきたいのです。ドビュッシーとラヴェルは色彩感を表現し、想像力を喚起する作品を選びました」

 フランス作品に潜む絵画的な色彩感をもっとも大切に考えたいという。
「モネやセザンヌなどの印象派からピカソやマティスの絵まで、多彩な絵画を連想させる作品の数々を、集中力をもった日本の聴衆とともに体験し、ひとつの“旅”に出たいのです。フランス作品は人間的感情を前面に出すことなく、内面に隠すように表現し、軽妙でシニカルで詩的な味わいに富んでいます。それを楽譜から読み取り、聴衆の想像力を促すような演奏に仕上げなければなりません。各曲は短いですが、ひとつずつ物語がある。ですから曲間の拍手は抑えてほしい。すべてがつながり、大きな絵画や文学のような意味合いをもたせますから。その雰囲気に私とともに没入し、心の旅を楽しんでほしいのです」
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2019年8月号より)

2019.9/21(土)14:00 徳島/あわぎんホール(088-622-8121)
9/24(火)19:00 フィリアホール(パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831)
9/26(木)19:00 東京文化会館(小)(03-5685-0650)
9/29(日)14:00 鹿児島/霧島国際音楽ホール(0995-78-8000)
http://www.pacific-concert.co.jp/