百花繚乱の注目公演ぞろい!――東京・春・音楽祭 2025 ラインナップ

大きな節目を超え、今年も一流アーティストが内外から集結!

文:飯尾洋一

 すっかり春の上野の風物詩として定着した「東京・春・音楽祭」。21回目を迎える今回も、目を見張るような充実したラインナップが組まれた。開催期間は2025年3月14日から4月20日まで。東京文化会館を中心に、上野の美術館や博物館ほかで、多彩な公演が連日開催される。

 この音楽祭の最大の呼び物となるのが、演奏会形式によるオペラ。3つの演目が上演される。音楽祭の顔というべき「ワーグナー・シリーズ」では、マレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団による舞台神聖祝典劇《パルジファル》がとりあげられる。今回もドイツの名匠がN響からひりひりするような緊張感みなぎるサウンドを引き出してくれることだろう。オーケストラのポテンシャルを常に最大限に発揮させるのがヤノフスキ。題名役のスチュアート・スケルトン、クンドリ役のターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー、アムフォルタス役のクリスティアン・ゲルハーヘル、グルネマンツ役のタレク・ナズミら、豪華歌手陣とともに深遠な作品世界へと誘う。

上段左より:マレク・ヤノフスキ ©Felix Broede、スチュアート・スケルトン © Sim Canetty-Clarke、ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー ©Dario Acosta
下段左より:クリスティアン・ゲルハーヘル ©Gregor Hohenberg、タレク・ナズミ ©Marco Borggreve

 「プッチーニ・シリーズ」はオクサーナ・リーニフ指揮読売日本交響楽団による《蝶々夫人》。ボローニャ歌劇場音楽監督を務めるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中のリーニフが、読響とどんな化学反応を起こすのか、楽しみだ。クロアチアのラナ・コスが題名役を務める。

左より:オクサーナ・リーニフ ©Oleh Pavliuchenkov、ラナ・コス

 そして、2025年に生誕200年を迎えるヨハン・シュトラウスⅡ世のオペレッタ《こうもり》が、ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団により演奏される。この音楽祭でノット&東響の名コンビが登場するのはうれしい驚き。しかも《こうもり》とは意外性のあるチョイスだ。演奏会形式で聴くことで、作品の新たな一面を知ることになるかもしれない。アドリアン・エレートのアイゼンシュタイン、マルクス・アイヒェのファルケ博士ら歌手陣も実力者ぞろい。

左より:ジョナサン・ノット、アドリアン・エレート ©Nikolaus Karlinský、マルクス・アイヒェ ©Fumiaki-Fujimoto

 オペラ以外にも注目公演が目白押しだ。恒例の「合唱の芸術シリーズ」では、ヤノフスキ指揮N響が東京オペラシンガーズとともにベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」に取り組む。ベートーヴェンのもっとも偉大な作品のひとつであるが、この曲を最高水準の演奏で聴けるチャンスは決して多くない。記憶に残る名演を期待したい。
 この音楽祭に欠かせないマエストロ、リッカルド・ムーティも登場する。ムーティは今年9月に「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」でヴェルディの《アッティラ》を指揮してくれたばかりだが、春の音楽祭ではオーケストラ・コンサートを指揮する。レスピーギの交響詩「ローマの松」やカタラーニの「コンテンプラツィオーネ」(とても甘美な曲だ)、オペラの序曲と間奏曲からなるイタリア音楽プログラムが組まれた。ムーティからの信頼も厚い東京春祭オーケストラが共演する。

リッカルド・ムーティ ©Todd Rosenberg Photography – By Courtesy of riccardomutimusic.com

 「東京・春・音楽祭」の魅力は、これら話題性の高い大型公演に加えて、リサイタルや室内楽にも興味深い公演がずらりと並ぶ点にある。前回、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を演奏したルドルフ・ブッフビンダーがふたたび招かれ、シューベルトに取り組む。ピアノ・ソナタ第21番を中心としたソロと、N響メンバーと共演する室内楽プログラム2種類が用意される。
 現代最高峰のピアニスト、キリル・ゲルシュタインもソロと室内楽のプログラムに出演する。ソロではシューマンからラヴェルに至るバラエティに富んだプログラムを、室内楽ではカルテット・アマービレとの共演でブラームスを披露する。

ルドルフ・ブッフビンダー ©Marco Borggreve
キリル・ゲルシュタイン ©Marco Borggreve

 現代音楽ファンにとっては、アンサンブル・アンテルコンタンポラン(EIC)とクラングフォルム・ウィーンの2つのアンサンブルの登場が大きな話題となるだろう。EICを立ち上げたピエール・ブーレーズの生誕100年を記念したプログラムが組まれる。指揮は2023年より音楽監督を務めるピエール・ブルーズ(奇しくもブーレーズに似た名前である)。一方、クラングフォルム・ウィーンはブーレーズとベリオの両者の生誕100年に焦点を当てる。

アンサンブル・アンテルコンタンポラン ©Quentin Chevrier
クラングフォルム・ウィーン ©Tina Herzl

 毎年人気のベルリン・フィルのメンバーによる室内楽や、金川真弓のヴァイオリン、ベン・ゴールドシャイダーのホルン、ジュゼッペ・グァレーラのピアノによるホルン三重奏、テノールのマウロ・ペーター、バリトンのクリスティアン・ゲルハーヘルによる歌曲シリーズも目を引く。

金川真弓 ©Victor Marin
マウロ・ペーター ©Christian Felber

 ミュージアム・コンサートは上野を舞台にしたこの音楽祭ならではの企画。今回も東京国立博物館、国立科学博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館で公演が開かれる。ミュージアムを舞台にした公演には、コンサートホールとはまた違った新鮮な喜びがある。奏者との距離の近さは、しばしば音楽のディティールを驚くほど雄弁に伝える。名物企画であるマラソン・コンサートはヨハン・シュトラウスⅡ世生誕200年がテーマ。バイロイト音楽祭提携公演「子どものためのワーグナー」では、例年同様に「ワーグナー・シリーズ」と同じく《パルジファル》が、約70分で抜粋上演される。
 昨年同様、高画質・高音質による有料ライブストリーミング配信も行われる。現地に足を運べなくても聴ける「ネット席」は心強い味方だ。

 もりだくさんの公演プログラムから、なにを聴くか。カレンダーをにらみながら頭を悩ませるところから、音楽祭の楽しみは始まっている。


東京・春・音楽祭 2025【配信あり】
2025.3/14(金)〜4/20(日)
東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、旧東京音楽学校奏楽堂、東京国立博物館、国立科学博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館 他
問 東京・春・音楽祭サポートデスク050-3496-0202

https://www.tokyo-harusai.com
※プログラム、チケット発売日などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。