サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2019

王道の室内作品に秘曲をプラスした室内楽ファン垂涎のプログラム


注目のクス・クァルテット登場

 初夏恒例となったサントリーホールのチェンバーミュージック・ガーデン。同ホール館長でもあるチェリストの堤剛が監修した全19公演。
 今年は、クス・クァルテット(ドイツ)による、全5回に分けたベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏「ベートーヴェン・サイクル」が核心だろう(6/2,6/5, 6/8,6/11,6/13)。2011年のパシフィカ・クァルテットから始まり、昨年のカザルス弦楽四重奏団まで続く名物企画の一環でもある。今回は「作曲順」(番号順ではなく)による上演。これは案外珍しい。しかも5日目の最終曲は、ベートーヴェン作品ではなく、現代フランスの作曲家ブルーノ・マントヴァーニによるベートーヴェン讃歌とも言うべき弦楽四重奏曲第6番「ベートヴェニアーナ」(12分前後になる予定)の世界初演。「クス」はベルリンを拠点に25年以上活動している団体で、専門家の評価は高く、15年の同シリーズにゲスト出演した際に弾いたメンデルスゾーンの第6番は、白熱の名演だった。


室内楽アカデミー・フェローの活躍、そして内外の名手の妙技を味わう

 他の恒例シリーズの中では、室内楽アカデミー(略称CMA)第5期フェロー(受講生) たちを中心に、練木繁夫(ピアノ)、さらにはアンサンブル・ラロのメンバーが加わる2公演に期待が持てる(6/8,6/15)。CMA第5期には現在26名が在籍、クァルテットだけで5団体、トリオ2団体も含まれる。修了生の中には、あの葵トリオ(18年ミュンヘン国際音楽コンクール優勝)の3人も含まれている。

 チェンバーミュージック・ガーデン初日にも、CMA現役メンバーの築地杏里(チェロ)が堤剛と共演する(6/1)。フェローたちによるクァルテット、タレイア、インテグラ、チェルカトーレ、アミクスらによる合同演奏は大いに楽しみだ。

 ちなみに、アンサンブル・ラロはウィーン・フィルのメンバーでもある若手チェリスト、ベルンハルト・直樹・ヘーデンボルク(名手!)、ピアノのダイアナ・ケトラー他を中心とするピアノ四重奏団。シューマンが創作した架空の「ラロ博士」の名前に由来し、作曲家ラロとは無関係。彼らは最近、毎年のように来日しており、今回もブラームスのピアノ四重奏曲第3番の他、ラトビアの現代作曲家ヴァスクスのピアノ四重奏曲というかなり珍しい曲が予定されている(6/15)。

 16年から始まり、チョーリャン・リンや上海クァルテットも出演した「アジアンサンブル@TOKYO」シリーズも見逃せない(6/10)。今年はヴァイオリンのハン・スジン(1986年韓国生まれイギリス育ち)と、シベリア生まれ、モスクワ音楽院で学び、今はイギリス在住のピアニスト、パヴェル・コレスニコフに、チェロの宮田大が加わる“一夜限りの豪華共演”。ハンと宮田は、ドイツ・フランクフルト近郊で催されるクロンベルク・アカデミーで学んでいた。「アジア」を共通項にしながらも出自は今風にハイブリッドな3人は、前半のソロやデュオの後、最後にブラームスの有名なピアノ三重奏曲第1番ロ長調を披露する。


エラールピアノのソロ、ユニークな演目のフィナーレも必聴

 他には2018年「第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール」の優勝者、トマシュ・リッテルを迎えた「エラールの午后」も興味津々(6/9)。これにはサントリーホールが04年から所蔵している1867年エラール製のピアノが使われる。前半のソロ4曲の後、ショパンのピアノ協奏曲第2番の室内楽版が披露される。

 平日の午後1時からの60分コンサート「プレシャス 1 pm」全4回には、渡辺玲子(ヴァイオリン)、堤剛、吉野直子(ハープ)、小山実稚恵(ピアノ)、コハーン・イシュトヴァーン(クラリネット) ほかが出演(6/5,6/7,6/12,6/14)。また、トークも入る「ディスカバリーナイト」2公演は「プレシャス 1 pm」の“夜版”で、テノールのジョン・健・ヌッツォほかが出演(6/6,6/12)。「フィナーレ」公演では、これまでに触れたアーティストたちが多数出演し、ドホナーニ、マルティヌー、アレンスキー、エルガーなど、録音では知られてはいても実演にはまず出会えない名作が一部、または全曲演奏される(6/16)。
文:渡辺和彦
(ぶらあぼ2019年4月号より)

2019.6/1(土)〜6/16(日) サントリーホール ブルーローズ(小)
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017 
http://suntory.jp/HALL/