東京芸術劇場ナイトタイム・パイプオルガンコンサート Vol.52 フランソワ・エスピナス

劇場空間に広がるフランス実力派の響き

©Louis Nespoulous

 19時30分から約1時間、1,000円という価格で、名手たちの演奏によるガルニエ・オルガンの響きに浸る。東京芸術劇場の「ナイトタイム・パイプオルガンコンサート」は、喧騒に満ちた大都会・東京の夜のオアシスだ。第52回はフランソワ・エスピナス、コロナ禍による延期をはさみ7年ぶりの来日を果たすフランスの名手である(岐阜、石川、愛知でも公演が行われる)。ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂のオルガニストに任命されるなど古楽に造詣が深く、一方で同時代作曲家との協働作業も行う、現代ならではの幅広い視野を備えたオルガニストだ。

 プログラムはフランスのオルガン音楽を主体としている。まず17世紀初頭のティトゥルーズとロベルデの、古風だが多彩な響きを。同時代フランドルのコルネと、エスピナスの師アンドレ・イゾワールが編曲したバッハが続く。「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番」第1楽章の編曲に、バッハ自身がオルガン用に編曲した同曲の第2楽章フーガをつなげるという凝りよう。そして一転、シンセ世代のオーベルタン、そして20世紀前半の神秘主義的オルガン音楽の大家トゥルヌミールで締めくくられる。

 ルネサンス、バロック、モダン3タイプの演奏が可能な東京芸術劇場のオルガンの特性を生かし、広大な時の流れを圧縮したプログラムだ。折しもパリ・オリンピックの最中。ひと時フランス・オルガン音楽の響きの饗宴に身をゆだねるのもまた一興だろう。
 文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2024年8月号より)

2024.8/1(木)19:30 東京芸術劇場 コンサートホール
問:東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296 
https://www.geigeki.jp

他公演 
2024.7/26(金) 岐阜/サラマンカホール(058-277-1110)
8/4(日) 石川県立音楽堂 コンサートホール(076-232-8632)
8/7(水) 愛知県芸術劇場 コンサートホール(052-211-7552)