シューベルトが遺した未知の舞曲に出合う一夜
佐藤卓史は、シューベルト国際ピアノコンクールにカントゥ国際ピアノコンクールで第1位、エリーザベト王妃国際コンクールなどで上位入賞を果たすなど多数の受賞歴をもち、室内楽奏者としても活躍目覚ましいピアニストだ。2014年からは「佐藤卓史シューベルトツィクルス」を開始。これはピアノ独奏曲とピアノ連弾曲、そしてピアノを含む室内楽の3分野の器楽曲を全曲演奏するという壮大なシリーズとなっている。記念すべき第10回のテーマは「舞曲Ⅱ ―最初のワルツ―」である。
「今回は主にシューベルトの創作時期の“初期”に出版された舞曲を集めました。彼が“舞曲作曲家”として認められ始めた頃のもので、ふだん私たちが耳にするようなシューベルト作品独特の“哀しみ”はなく、ウィーンの情緒に満ちた、軽やかな作品が並んでいます」
今回はドイツ舞曲にワルツ、エコセーズ…と様々な舞曲が並ぶが、断片のみが遺されている作品も含めて演奏するというこだわりの選曲となっている。断片については佐藤が補筆し演奏するという。
「『36のオリジナル舞曲 D365』や『6つのレントラー D970』の自筆譜には出版譜の中には含まれていない断片があり、20世紀に入ってからこれも出版されています。これは左手の伴奏どころかリピート記号もきちんと書かれていないなど本当にメモ書きのような状態で、復元できるかどうか悩みましたが、彼の自筆譜の方をよく見てみると、様々な書き込みがあって、出版譜からはわからないことがたくさん見えてきたんです。補筆の大きな参考になっていますね」
旋律しか書かれていない断片の「2つの舞曲 D980A」と「2つのレントラー D980C」への伴奏づけは、シューベルトの他の作品をもとに、彼のスタイルに則って行っているという。
「基本的にはシューベルトの舞曲の伴奏のスタイルは決まっていますし、和声もこの時期はそこまで複雑ではないので、ある程度予想がつきやすいのです。あとは音域のことを念頭に置きながら適宜つけていく感じです。おそらくこれらの断片が公開で実演されるのは世界初だと思いますので、ぜひたくさんの方に聴いていただきたいですね」
若きシューベルトの素直な音楽性が発揮された舞曲は多様なキャラクターを持っている。基本的にはシンプルな和声進行でありながら、後期作品を思わせるような響きも聴かれたりと、驚きも与えてくれるはずだ。新しいシューベルトに出会いに行くような気持ちでお出かけいただきたい。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2019年3月号より)
佐藤卓史 シューベルトツィクルスピアノ曲全曲演奏会 第10回 舞曲Ⅱ ―最初のワルツ―
2019.4/5(金)19:00 東京文化会館(小)
問:アスペン03-5467-0081
http://www.aspen.jp/