「バランシン・テクニック」翻訳本

BalancineCover

11月16日発行でも紹介した「バランシン・テクニック」の翻訳本をeDANZAの読者1名様に特別プレゼント。
舞台鑑賞はもちろん、自らも踊るライター浦野芳子のお薦めバイブル本をさらに詳しく紹介したい。

B5判・482ページ
¥8,190(税込)
大修館書店
http://plaza.taishukan.co.jp/shop/Product/Detail/41046?p=0&hk=バランシン

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【バランシンのバレエ哲学を、精緻な言葉の集積にした一冊】

数あるバレエの教則本の中でも、ここまで“型”と“動き”を事細かに言葉で表現したものがあっただろうか。
スキ・ショーラー著『バランシン・テクニック』(大修館書店)。B5版/全482ページのどっしりしたボリュームのなかに、基本ポジションに始まり、ポワントワーク、パートナーリングに至るまでのバレエにおけるあらゆる動きを細かく分析・指導した一冊である。

●バレエの身体感覚を精緻に言語化

身体で行う表現は、言われた型・動きをそのままなぞれば正解、というわけでは済まされない世界である。同じ型や動きでも“身体の感覚”が伴わないとそれは“美”にも“表現”にも通じないのである。バレエにおいていえば、まず大切にされる“天から細い糸で吊るされているような”立ち方だとか、“遠くに引っ張られ続ける”感じの手脚の使い方などがそれに当たるだろう。なんとなくは理解できるけれど、説明としては非常に抽象的なので、具体的にどこをどうしていいのかわからない=個人の感覚に頼るところが大きい、ということになる。指導者あるいは振付家と、表現者の間に、そのイメージに対する共通した理解、あるいは共有できる感覚があるかないかが、身体の精度を左右するのだといっても過言ではないかもしれない。
そんな、言葉にはしづらい“身体感覚”を、この膨大なページ数の中に言語化した、スキ・ショーラーという人に、まずは敬意を払いたい。彼女は、ジョージ・バランシンのテクニックをもっとも正確に吸収したバレリーナとして高い評価を得、バランシンの傘下であるニューヨーク・シティ・バレエを退団した後もなお、ニューヨーク・シティ・バレエ付属スクールの専任講師を務めた人物。つまり、バランシンが、自分の技術とバレエに対する思想を継承するのにもっとも信頼を置いた人物である。

●“観る音楽”と称される身体の秘密

「作曲家はダンサーが踊る時間を作り出し、ダンサーはその時間の中で泳ぐ」と、バランシンのもとで過ごした時間をスキ・ショーラーは語る。それだけ、バランシン、つまりニューヨーク・シティ・バレエの作品世界では“音楽との高い親和性”が重視される。その作品のほとんどが、抽象的で特にストーリーを持たないのは、そのためだ。バランシン作品におけるバレエのテクニックは、豊かに伸び、膨らみ、リズミカルに空気を刻む音を表現するために存在するといってもいいかも知れない。
バランシン・テクニックには独自の身体の使い方がある。バランシンの“身体のライン”へのこだわりや、音楽性に対するデリケートさなど……ニューヨーク・シティ・バレエの団員たちがおしなべて手脚、首筋が長いのも、バランシンの美意識によるものであろうとは想像していた。その長い腕や脚が音楽に同調して動くとき、バランシンはそこに音楽の可視化を実現したのである。
その音楽の可視化を成し遂げた“企業秘密”を明かしているのがこの一冊と言えるのではないだろうか。彼が徹底した“最大級のターンナウト”、“支持脚より動作脚の重視”にはじまり、あらゆるポジション、動きに対するバランシンのこだわりが、本書には事細かに記述されている。ダンサーの流れるような動きに途切れる瞬間があってはならない。観客に、耳はもちろん、目と、そして心で音楽を感じてもらうために、バランシンが心を砕いた“動きへのこだわり”が、具体的な言葉となって細かに記載されているのだ。

●バランシンのエピソードがたっぷり

とはいえ、この本を頭から最後まで一気に読破するのには、根性がいる(笑)。まずは、自分の学びたいことに関連する項目をひとつひとつ紐解いて、日々のレッスンに生かしていく、というのが現実的だと思う。あるいは自分がバレエの指導者なら、身体の動きをどう生徒らに伝えたらいいのか、その表現方法について参考にするのには頼もしいだろう。けれども、バランシン作品を踊ろう、という人にはぜひとも一度は手に取っていただきたいと切望する。
なぜならこの本には、バランシンのレッスン哲学やエピソードが詰め込まれているからだ。
レッスンでは、余計なものを着込んで身体のラインを隠してしまうことを嫌ったこと、とはいえ鏡ばかり気にして自分の身体をさわりまくることを禁じたこと。深い思考力を持つダンサーを求めたこと、「もっと」をテーマにしたCMソングを歌いながらダンサー達にさらなる追求を求めたこと、などのエピソードの間から、彼の残した言葉がキラキラと輝きを放つ。

『人生には1回分の時間しかありません。この時間の中で、身体をこのうえなく見事に使いこなさなくてはならないのです』
『私たちがターンアウトする理由は、美しい詩を書く詩人と同じです』

最後に。
この本の中で見つけた、私の大好きな言葉である。
『舞台の上ではテクニックを気にしないで、ただ踊りなさい』

テクニックの習得、日々の修練とは、ただその目的のためにあるのである。それを、膨大かつ丁寧な解説を通して教えてくれる、貴重な一冊だ。

(文・浦野芳子)

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