【対談】池辺晋一郎 × 一柳 慧

夢のBIG対談! 「横浜音祭り2013」への想いを語る!!

港町として早くから世界に開かれ、文化芸術への関心が高い横浜で、今秋また新たな音楽フェスティバルが開催される。その名も「横浜音祭り」。プロアマ問わず、多彩なジャンルの公演が市内各所で行われる、まさに「音の祭典」だ。日本が誇る作曲家であり、神奈川・横浜と縁が深い大家2人にこの新しい祭典について聞いた。

——横浜音祭り2013はそもそもどこから始まることになったのでしょう。

池辺(以下IS) 横浜でトリエンナーレが始まって、これは美術を中心に3年ごとです。で、あとの2年は何をするのか。年ごとに異なったジャンルに焦点を当て、昨年がダンス(Dance Dance Dance@YOKOHAMA2012)で、今年が音楽、来年が美術というようにやっていこうと。
一柳(以下IT) 私も3年間でまわってゆくという形が、なかなか良い発想ではないかと思っています。ただ、ちょっと形態が違います。トリエンナーレは、国際的なイメージとして最先端のものを、となっている。こちらは、もうちょっと、「音祭り」という名に相応しい、古今東西、カタいもの、古いもの、新しいものをとりまぜている、とでも言ったらいいでしょうか。

——横浜のホールや劇場がこの何年かで充実し、地下鉄と在来線がつながって、東京あるいは埼玉からでも横浜にスムーズに来ることができるようになりました。

IS 横浜は、東京の隣ではあるけれど、やはり地方なんですよね。どういうときに顕在化するかというと、民間からの助成を仰ぐ、あるいは支援を頼むというとき、たいていが本社ではないんです。東京であれば、全部本社・本部の裁定になりますが、横浜は隣なのに支社。それが難しさに通じてしまいますね。そこを乗り越えていかなければいけないかな。
IT それでいながら、神奈川や横浜には、完全に独立した新聞もあればテレビもある。東京だとものすごくたくさんの情報が同時に押し寄せてくるから、やっぱり取り上げられないものはいろいろとあるんですよ。逆に神奈川や横浜だと、わりあいとメディアが敏感なんです。まあ確かにちょっと地方的な色彩はありますけれど、たとえば新聞社もけっこう熱心で、応援してくれるし、記事も多く出る。何をしているかということに対して、目配りは行き届いている。
IS 確かにそうですね。ある意味ではメディアが「おらが町の」という意識を持ってくれるんですよ。ただ「おらが町の」というのは、さっきの支社レベルの話があることもまた確かです。でも、テレビにしても新聞にしても市民の心情にしても、たとえば神奈川フィルは「おらが町の」オーケストラだし、横浜みなとみらいホールは「おらが町の」ホールであり、という感じは東京より強い。それをメリットにしていかなければならないと思います。

——横浜であること。

IS 横浜というのは港町ですよね。港町、大きな客船が出入りするような町というのは、本質的に人心がわりあい新しもの好きだと思うんです。いつでも何か新しいものに対する好奇心がある。
少し前に、港に十階建てくらいのすごく大きな船が泊まっているのを見たんですが、あれはビルの谷に囲まれた景色とは全然違うんです。あの船はどこへ行くのか、どこから来たのかと自然に思ってしまいますよね。そういうところに住んでいる人たちは、向こうに行けば何があるか、向こうから何が来るかっていうことに対する関心はとても強くなるはずです。だから横浜とか神戸とか長崎とかいった街はみんな共通したところがあると思う。
こうした国際都市で、港町に住んでいるがうえの心情や傾向にきちんとマッチするような音楽祭をやれば良いと僕はずっとそう思っていました。横浜にはそういう下地があります。この「音祭り」のようなものが、だんだん出現しつつある感じはしますね。
——「音祭り」では、多くのコンサートがあって、それをつなげてゆくという形になっています。

IS 音楽祭の何が良いかと言うと、本当は音楽文化にしても「常態」、常にあるものが理想だけれども、それはやはり机上の空論でなかなか人の耳目を集めない。そうなるとやっぱり音楽祭とか、なんとか週間とかにすることで人々の注目を引くわけですね。たとえばいろいろなアニヴァーサリーにしてもそうです。別に今年だけワーグナーやヴェルディをやれば良いというのではなくて、常にあれば良い。でも、やっぱりアニヴァーサリーにすると、それをきっかけに人々が注目する、着目するということが大事なんです。それと同じで、フェスティバルっていうのもそういう性格を帯びることになると思うし、それはそれで僕は良いことだと思っていますよ。

——「横浜音祭り」というのは、おもしろい名称ですね。

IS 音楽って言う振りかざし方じゃなくて、音が鳴っていればそこに何か起こるっていう、ある種のスリリングな瞬間を感じますよね。
IT 行われる会場の数を見てみると、四十数カ所ある。横浜くらいの街で四十数カ所の場所でいろんなことが行われるというのは、日常生活の中にそれが浸透していくっていうことではないでしょうか。たぶん、いま日本で一番足りないのはそうしたところなのでは。音楽ってわりあい杓子定規に縦割りになっちゃっていますしね。そうではなくて、町のいろんな性格を持った場所で、性格の違う音楽が行われるというその日常性っていうのが、ユニークだと思いますね。
IS 僕は演劇に深く関わっていて、しょっちゅう劇場にいるんですが、そういう現場では、たとえば照明家なんて言わない。「灯り屋」ってみんな言うんです。で、作曲家は「音屋」なんですよ。美術の人は「道具屋」。そういう意味では「音祭り」っていうのは非常に現場的なんです。音楽なんてものじゃない、音なんだ。そういう非常に現場的な感覚を感じて、僕はとても好きですね。

——20回目を迎える神奈川国際芸術フェスティバルから、今年初めて音楽祭を開催する、横浜へのエールをお願いします。

IT エールというか、希望というか(笑)。やっぱり一回や二回で終わってしまっては何も生まれないし、何も交流しない。だから我々がやってきた二十回が必ずしもベストとは言わないけれど、ともかく継続してやっていく粘り強さみたいなものを持ってがんばっていただきたいと思いますね。で、もっと池辺さんのような作曲家を抱き込んで、良い企画をどんどんやっていただきたいな、と。

——最後に、今後のことを。

IS 文化というのは、文化、文化と叫んで来年から実現、文化的になるというものではないわけです。いろいろなことが積み重なって、ある花が開くわけですよね。そのことからも、この音楽祭をじっくり見ていってほしいと思っています。

取材・文:小沼純一 写真:青柳 聡
(ぶらあぼ2013年7月号から)

◆横浜音祭り2013
[会期]
9/20(金)〜11/30(土)
[会場]
横浜みなとみらいホール
横浜赤レンガ倉庫
神奈川県民ホール
横浜市内文化・観光スポット
[主催]
横浜アーツフェスティバル実行委員会

◆『横浜音祭り2013 〜音楽の海へ〜』 公式サイト http://yokooto.jp/
◆『横浜音祭り2013 〜音楽の海へ〜』 公式ツイッター https://twitter.com/yokooto2013
◆『横浜音祭り2013 〜音楽の海へ〜』 公式facebook http://www.facebook.com/pages/Arts-Yokohama/367664946585434
◆ぶらあぼ別冊「横浜音祭り2013」公式プログラム https://ebravo.jp/archives/4910

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