小暮浩史(ギター)

美しき音色で綴るギター音楽のアンソロジー

Photo:Laurent Khrâm-Longvixay
 昨年開かれた東京国際ギターコンクールで優勝した実力派奏者の小暮浩史が、5年ぶり、2枚目となるアルバム『オブリビオン』を発表する。「愛奏する作品で録音するのが、自分なりの切り口になるのでは」と、バロックから現代まで、6人の作曲家による多彩な名品を収録。「クラシックギターの魅力は、音色の美しさ。その魅力が引き出せる作品を、常に求めている」と語る。
「コンサートでも、時代をまたいで選曲することが多いですね。それは、お客様にこの楽器が背負う歴史を知っていただきたいから。ギターという楽器は身近ですが、その中でも進化の時間を一番長く担っているのがクラシックギター。背景にある歴史も併せて聴いていただくのは、弾く者の使命とも感じています」
 その言葉通り、フレンチ・バロックのド・ヴィゼーからロマン派、タイトルに掲げたピアソラ、さらにアサドやダンジェロといった現代の名ギタリストの手になるものなど、300年の時を超えた作品を収録。特に、アサドが、2016年にフランスで開かれたアントニー国際ギターコンクールの課題曲として作曲した「南米風変奏曲」は、世界初録音となる。
「私はこのコンクールに参加し、課題曲の演奏が最も優れた人に贈られる課題曲賞を、アサド本人から贈呈されました。彼の作品が大好きで、以前からよく演奏していたのですが、お会いできただけでも嬉しいのに、評価していただけて、本当に幸せでした。日本初演も経て、今回の録音には外せない一曲でした」
 さらに、2曲を収録したピアソラは、いずれも、16年に逝去したギタリストで作曲家のローラン・ディアンスの遺作編曲だという。
「単に全ての音をギターに移すのでなく、原曲を超越し、もはやディアンスの作品と言えるほどに洗練されています。実は、私がギターを始めるきっかけにもなった作曲家。『弾きたい』と強く感じた自分の原点を記しておきたい、という気持ちです。感謝と尊敬の念を込めたタイトルです」
 小暮の発音一つひとつが、聴く者の耳に実に優しく響く。
「ギターの一番の魅力は音色ですが、実際に美しく音を出すのには、すごく気を遣います。早いパッセージでも綺麗な発音を心掛け、爪の手入れも欠かしません」
 さらに、間合いの絶妙さも印象的だ。
「一度出した音は、減衰するしかないギター。そんな儚さ、消えゆく美しさに聴き入るのが、心地よい間合いだと思っています」
 本格的にギターを始めたのは18歳。“晩学の強み”について「人一倍努力しないと、と思えるモチベーション。知らないことだらけだからこそ、勉強中は常に新鮮で、ワクワクします。一生、勉強を続けていきたい」と話す。「ギターは、常にそばに寄り添う仲間。音楽とは、心を豊かにする時間」と言う俊英。今後の目標について「ギター音楽を一人でも多くの人に。そして、クラシックギターはこんなことができる、と全国のアコギ、エレキ少年たちに知ってほしい」と語った。
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2018年11月号より)

CD『オブリビオン』
マイスター・ミュージック
MM-4043
¥3000+税
2018.10/25(木)発売