すべての感情が込められた音 すべてが凝縮された響きを目指します
話を聞くにつけ、彼の中では医師として生きること、芸術家として生きていることが自然な形でリンクしているのだろうと感じる。
「とはいえ、みなさんは医者のピアニストを聴こうと思っているわけでも、ピアニストに身体を診てもらおうと思っているわけでもありませんからね。その意味では、二つの活動は分けて行われるべきだと思います。でも、医師でピアニストである上杉という人間がいて、そこから生まれた音楽を、『なるほど』と受け止めてもらうことができたら一番良いだろうとは思います」
上杉の知性と情感にあふれた音楽は、物事を秩序立てて指し示してくれるようでもあり、同時に自由な思考を促すようでもある。絶妙なバランスで、聴く側の想像をかき立てる。
「僕が目指すべきは、すべての感情が込められた音、すべてが凝縮された響きです。聴く人の感情によって自由に感じてほしい。それぞれの心を受け止める演奏をすることが、僕の夢です」
今後も限られた時間の中で、生きている間にどうしても取り組んでおきたいという気持ちがぬぐえない作品を中心に、じっくり向き合うつもりだという上杉。25年の集大成となる演奏会を節目に、また新たな探求と発見の日々が始まる。
取材・文:高坂はる香 写真:藤本史昭
(ぶらあぼ2013年9月号掲載)
公式ウェブサイト
http://www.uesugi-h.jp
Concert
上杉春雄ピアノ・リサイタル“時を聴く”
★10月8日(火)19:00・旭川/大雪クリスタルホール音楽堂
問:080-5592-6028(若杉)
★10月15日(火)19:00・札幌コンサートホールKitara
問:オフィス・ワン(011-612-8696)
★10月28日(月)19:00・紀尾井ホール
問:音楽事務所サウンド・ギャラリー03-3398-5631
★11月2日(土)14:00・兵庫県立芸術文化センター(小)
問:おふぃすベガ0798-53-4556
【CD】
『J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻』
オクタヴィア・レコード
OVCT-00087(SACDハイブリッド盤) ¥3800