すべての感情が込められた音 すべてが凝縮された響きを目指します
一方後半では、子供のころからとにかく好きだったというストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの３楽章」で始め、ショパンのピアノソナタ第３番へと続ける。どちらもデビュー時に演奏した作品だ。
「僕にとって『ペトルーシュカ』は、弾くたびに身体の全細胞が踊るような大好きな曲。25年前、たぶん日本人で初めてこの曲を録音したのは僕だと思います。そしてプログラムは最初に大きく揺れた振り子がだんだん中心に向かって落ち着くように、バッハとクセナキスから始まり、最もピアノ的な音楽であるショパンに収束します。その中で何度か時代を逆行しますが、それもまた現在から過去を見ることしかできないという、我々の歴史認識の本質と重なります」
上杉の語るコンセプトを踏まえた上で音楽に耳を傾けると、新しい何かが見えてきそうだ。
「コンセプトが先走った“頭でっかち”の演奏会にはしたくないのです（笑）。でも、何かの意義を噛みしめるような、こういうプログラムもありかなと。人間にとって、『宇宙とは何か』、『自分とは何か』ということは最大の謎だと思います。その答えを求めて、科学、宗教、哲学、そして芸術が生まれました。最高の芸術は、その問いへの答えをちらっと垣間見せてくれます。これは、人生の中で最も充実した瞬間の一つです。プログラムを通して、自分でもそういうものを見ることができたらと思っています」