ロシア出身で京都在住のピアニストのイリーナ・メジューエワは、ベートーヴェンやメトネルらのピアノ作品を網羅的に紹介するリサイタル・シリーズを意欲的に行ってきた。2023年7月からは東京全4回、名古屋は23年4月より全6回にわたり、ショパンのピアノ独奏曲を初期〜中期〜後期の創作順で紹介する「ショパンの肖像」を開催。12月に東京でいよいよ最終回を迎える。
「作曲年代順に追うことで、ショパンの発想や語法により深く近づくことができますね。新たな発見もあります。これまで私にとって中期作品は雄々しい印象でしたが、詩人というより数学者のような論理的な要素が見えてきて、近しく感じられるようになりました」
12月の最終回は、すべて後期作品によるプログラムだ。音楽的特徴はどんなところにあるのだろうか。
「晩年のショパンの音楽は、メロディとハーモニーとが緊密に結びつき、容易に分けられなくなります。ポリフォニックでちょっとバッハに近い。どんどん現実離れして彼岸の世界に近づき、この上ない透明感を持ち始めます。ショパンは実は非常に論理性をもった作曲家で、美しく洗練された形式で音楽を描きますが、その論理性と詩情のバランスが素晴らしい。後期作品の透明感は、まさに詩そのものですね」
プログラムは、スケルツォ第4番、バラード第4番、ノクターンop.55やマズルカop.56を含む。晩年の人気作「舟歌」もここで登場する。
「ショパンが『舟歌』と題した作品は1曲しかありませんが、バルカローレ(=舟歌)のリズムはノクターンop.37-2にもありますし、前奏曲第13番や即興曲第2番は嬰へ長調という調性でも共通していますから、この『舟歌』が突如生まれたわけではありません。しかし晩年になって、ジャンル名を冠した『舟歌』を残した。コンパクトでありながら、内容はとてもスケールの大きい作品です。私は日本語の“黄昏”という言葉のニュアンスが好きなのですが、この曲に黄昏時のやるせなさと幸福感が一体となった感情をイメージします」
リサイタルを締めくくるのは「幻想ポロネーズ」である。
「私にとって特別な作品です。まずはショパンの詩的なものと英雄的なもの、繊細さと強さという、一見相反する2つの要素が奇跡のように融合した作品であること。もう一つは、ロシア・ピアニズムの流れにおいて、この作品が非常に重視されており、とりわけ巨匠ゲンリヒ・ネイガウスの解釈や演奏様式の伝統が脈々と受け継がれていることです。私もネイガウスの深い音楽への憧れ、彼からの影響を強く感じています。一音一音を、ショパンとネイガウスと対話するような気持ちで、大切に演奏したいと思います」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2024年11月号より)
イリーナ・メジューエワ ピアノリサイタル ショパンの肖像 第4回(全4回)
2024.12/22(日)14:00 東京文化会館(小)
問:アイエムシーミュージック03-6379-8388
https://www.imc-music.net
他公演
ショパンの肖像 ~Portrait of Chopin~ 第6回 最終回
2024.12/7(土) 名古屋/宗次ホール(052-265-1718)