2大シンフォニストの“白鳥の歌”を並べて
マーラー、ブルックナーという“オーケストラ芸術の本丸”というべきレパートリーで、ノットは東京交響楽団と金字塔を次々と打ち立ててきた。緊張感あふれるリードで協調性や緻密さといった日本人の特性を引き出しつつも、ノットはそこにサウンドの輝かしさやパワーを加えてみせた。とりわけ一昨年7月のブルックナー8番は鮮烈な体験として胸に残っている。主張や個性をぶつけ合う欧米の楽団も顔負けの表現力があり、巨大な伽藍のように打ち立てられた剛毅なサウンドからは、楽団のイメージを一新してしまうほどのインパクトを受けた。
さて、そんな両者がいよいよこの4月定期で、マーラーとブルックナーの辞世の句ともいうべき二つの未完交響曲を並べる。マーラーは交響曲第10番第1楽章をほぼ完成させたところで亡くなった。曲は暗いトンネルの中をさまようように始まり、激しい不協和音が自我の崩壊を告げるが、その衝撃は安らぎへと回収されていく。ブルックナーは最後の交響曲を「愛する神に」捧げながら、フィナーレを作曲中に世を去った。結果的に最終楽章になったアダージョでは、魂が浄化され天界へと安らかに運ばれていく。
いずれもこの世ならぬ美しさをもった白鳥の歌だが、晩年の深い省察を湛えているだけに、両者を並べるという試みはあまりみない。そうした選曲の妙を味わいつつ、ノット&東響が明晰さや力強さ、型破りなスケール感を武器に、彼らの世界観にどう肉薄していくかに注目だ。新しい交響楽の可能性が見えてくるかもしれない。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年4月号より)
第659回 定期演奏会
2018.4/14(土)18:00 サントリーホール
川崎定期演奏会 第65回
2018.4/15(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:TOKYO SYMPHONYチケットセンター044-520-1511
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