一柳 慧(作曲)

日本の作曲家を牽引する重鎮の音楽世界

C)岡部 好
 2人の作曲家の競演による新しい形で昨年から始まったサントリー芸術財団コンサート「作曲家の個展Ⅱ」。今年は一柳慧と湯浅譲二という現代音楽界を牽引してきたベテランの作品がとりあげられる。
「2人で音楽会を共同で企画するアイディアは、最初に聞いたときからとても面白いと思っていました。湯浅譲二さんの音楽は日本の作曲家の中でもとてもユニークなもので、日本的な情緒や装飾的なものに頼ることなく、硬質で知的な構造をもっていると思います。今回は私と湯浅さんがともにオーケストラ・アンサンブル金沢から委嘱された同一編成によるピアノのための協奏曲が前半に演奏されます。湯浅さんの『ピアノ・コンチェルティーノ』は独自のセリーを用いており、構造美が活かされた作品です。私のピアノ協奏曲第3番『分水嶺』はちょうど湾岸戦争が起こっていた時期に作曲されていますので、そうした世界情勢や社会背景が内容と関わりを持っています」
 演奏会後半のプログラムは、湯浅の『クロノプラスティクⅡ―エドガー・ヴァレーズ讃―』、そして一柳の新作である。
「湯浅さんの曲は、彼が多大な影響を受けたヴァレーズへのオマージュで、彼の創作の本質に触れることのできる作品。久しぶりの再演になります。私の新作は今回の個展のテーマでもある“2”を生かそうということに少しこだわってみました。ヴァイオリンとチェロのソロを用いた二重協奏曲で、内容は西欧的ですが全体の構成は日本の“序破急”の概念に基づいています。全体は、2人のソロによるゆっくりした第1楽章、多彩な要素が詰まっている第2楽章、そして急速な第3楽章からなっています」
 これら2つの楽器の協奏曲にはごく最近のフィリップ・グラスの作品があるが、ブラームスの名作が有名だ。
「ブラームスの二重協奏曲は私もとても好きな作品のひとつですが、今回はブラームスからの引用はありません。ただ私はブラームスとちょうど100歳違いなので、その点では関連がありますね(笑)」
 新作のソリストには若手の成田達輝、ベテランの堤剛が起用される。
「おふたりのような優れたソリストの存在は作曲をよい方向に導いてくれます。曲のイメージがよりいっそう膨らむといってもいいですね。堤さんは本当に素晴らしいチェリストで、現代作品と古典を区別することなく、斬新なプログラミングで演奏してこられました。成田さんも新しい音楽を積極的に弾かれるヴァイオリニストなので楽しみにしています」
 演奏会前半の湯浅作品は児玉桃、一柳作品は木村かをりという日本を代表するピアニストが担当する。
「私の協奏曲は初演者でもある木村かをりさんにお願いしました。彼女にはこれまでたくさんの作品を演奏していただきましたが、いつでも私が思ったとおりに弾いてくださる方ですね。指揮をしてくださる杉山洋一さんは作曲家でもあり、難曲を巧みに仕上げることのできる数少ない存在です」
 オーケストラは現代ものにも定評がある東京都交響楽団。我が国の戦後の創作史をすぐれた演奏で辿る一夜になることだろう。
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ2017年10月号より)

サントリー芸術財団コンサート 作曲家の個展Ⅱ 2017
一柳 慧 × 湯浅譲二
2017.10/30(月)19:00 サントリーホール
問:東京コンサーツ03-3200-9755
http://www.suntory.co.jp/sfa/music/