いまこそ「日本のオペラ」の素晴らしさを多くの人に伝えたい
「大輪の花」という言葉がこれほど似合う人もいるまい。郡愛子が放っている、周囲を明るくあたたかい気持ちにするオーラは、日本オペラ協会の“新・総監督”という立場にいかにもふさわしい。
「藤原歌劇団に40年、日本オペラ協会に42年在籍してきましたが、それは私にとって舞台の上でキャリアを積んできた時間。オペラからコンサート、リサイタルなど、舞台の上で経験してきたことを、総監督として活かしていきたい」
総監督の役割は、「どれだけ多くのお客様に足を運んでいただけるかを考えること」。そのために郡がもっとも大切だと考えているのは「そのオペラをどのようなコンセプトで上演するのか」だという。
「演出家の意図というものが重要になってきます。演出家と指揮者、そして総監督の三者でコンセプトについて十分に話し合い、それに沿ったキャストを選ぶことになります。そして、キャスト全員がそのコンセプトを共有する。そうすることで、歌手の役作りも違ってくるはずです」
総監督としての最初の取組みは、なんと喜劇。日本オペラ協会の「室内オペラシリーズ」第1回となる《ミスター・シンデレラ》である。
「2001年に鹿児島で初演、その後04年に日本オペラ協会によって東京初演が行われ、たいへん評判だった作品です。今回は、作曲の伊藤康英さんに室内オペラ用に作り直していただきました」
大学でミジンコの研究をしている“くそ真面目”な学者、伊集院正男が、間違って蜂の性ホルモンを凝縮したジュースを飲んで絶世の美女に変身してしまう、という抱腹絶倒のストーリー。しかし笑いだけではなく、「最後には感動します!」とのこと。
「日本にもこうした“笑って泣ける”オペラがあるんだということを、ぜひたくさんの方に知っていただきたい」
日本オペラ協会は、日本人のつくった日本独自のオペラを専門に上演する唯一の公のオペラ団体である。日本文化の独自性が内外において見直されている昨今、“日本のオペラ”の素晴らしさを伝えたいという郡の意欲は強い。それは彼女自身が、キャリアの中で「日本語の歌を歌うこと」の重要性に気づいたからでもある。
「日本語の歌は、自分の気持ちをいちばん丁寧に伝えることができる。そのことに気づいた時、歌うことが一層楽しくなってきたんです。日本人として、日本の歌を歌うことの喜びを若い歌手たちにも知ってほしい」
《ミスター・シンデレラ》の後には、日本オペラの名作《夕鶴》の上演が控えている。「なぜ今、日本オペラ協会が《夕鶴》を上演するのか」と考えた郡への答えは、演出の岩田達宗が持っていた。
「岩田さんの演出意図は、“生物の垣根を越える激しい恋と破滅の物語”というもの。いちばん大切なものとは何か、という問いかけは現代に通じる重要なメッセージだと共感し、上演を決めました」
地方とも連携を取りながら「日本オペラ協会を日本オペラ発信の中心地に」と意気込みを語る新総監督のもとで発展する日本オペラ協会の今後に期待したい。
取材・文:室田尚子
(ぶらあぼ 2017年6月号から)
日本オペラ協会公演 室内オペラシリーズNo.1
伊藤康英:オペラ《ミスター・シンデレラ》
(全2幕/ニュープロダクション)
指揮:坂本和彦 演出:松本重孝
出演:中井亮一 所谷直生 沢崎恵美 大貫裕子 他
10/14(土)、10/15(日)各日14:00 18:30(全4回公演) 新国立劇場(小)
日本オペラ協会公演 日本オペラシリーズNo.78
團 伊玖磨:オペラ《夕鶴》
指揮:園田隆一郎 演出:岩田達宗
出演:佐藤美枝子 伊藤 晴 中井亮一 中鉢 聡 柴山昌宣
清水良一 泉 良平 豊島雄一 他
2018.2/17(土)、2/18(日)各日14:00 新宿文化センター
共同プロダクション公演
2018.3/10(土)、3/11(日)各日14:00 兵庫県立芸術文化センター
文化庁公演
2018.3/21(水)山形県南陽市、3/24(土)秋田県湯沢市
問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874
http://www.jof.or.jp/