METライブビューイング 2016-17

注目の新制作とスターの競演!シーズン後半の見どころ

《ルサルカ》より タイトルロールを歌うK.オポライス
©Ken Howard/ Metropolitan Opera
 10演目中4演目を終え、後半にさしかかったMETライブビューイング。今後の演目もいっそう華やかだ。
 まずは3本の新制作から。あまりにも有名なシェイクスピアの原作によるグノー《ロメオとジュリエット》は、オペラの永遠のテーマ“愛と死”にどっぷり浸れる名作オペラ。寄せては返す甘美な音楽が織り成す恋人たちの二重唱やアリアは、オペラにしかできない恋の夢を見せてくれる。今回の目玉は、D.ダムラウとV.グリゴーロという二大スターの競演。目下絶好調の二人だが、とりわけフランスものでの進境はいちじるしく、2015年3月にはMETでマスネ《マノン》で共演、大成功を収めた。天上へかけ上がっていくようなダムラウの完璧な美声と、甘く情熱的で吸い込まれるような魅力を放つグリゴーロの声がからみあう陶酔は忘れられない。今回はいっそう息のあったところを見せてくれそう。B.シャーのダイナミックかつ壮麗な演出、G.ノセダの繊細かつ劇的な指揮、すべてが理想的なニュー・プロダクションだ。
 シーズン最後を飾る《ばらの騎士》も、R.フレミングとE.ガランチャという二大スターの競演が売りだ。今シーズンのライブビューイングのメイン・ビジュアルはこの2人だが、ハリウッド映画か宝塚かという美しさに魅せられたひとも多いのでは。《ばらの騎士》元帥夫人は、METが生んだ世界の歌姫フレミングの十八番。「銀色の声」と称されるプリズムのようにきらめく彼女の声と、R.シュトラウスのとろけるようなそしてゴージャスな音楽は最高の相性だ。才人R.カーセンの演出は、時代をシュトラウスが生きた20世紀前半、ハプスブルク帝国末期に設定。カーセンの言葉によると、制作にあたっては、世紀末のウィーンで活躍したクリムトら「分離派」の画家たちから影響を受けたという。ウィーン世紀末の美意識に溢れた《ばらの騎士》とは興味津々。指揮のS.ヴァイグレはドイツ・オペラのスペシャリスト、共演陣もG.グロイスベックら芸達者が揃った。
 オペラ版「人魚姫」の物語、《ルサルカ》では、ライジングスターのK.オポライスがルサルカを演じるのが話題。ドヴォルザークは「魂に響く」というオポライスのクリアで鮮烈な美声は、美しき水の精に理想的だ。M.ジマーマンの幻想的な演出ともども、この世ならぬ世界に遊ばせてくれるだろう。
 再演にも名作、名プロダクションが並ぶ。天下の名作《椿姫》は、こちらも世界の桧舞台で絶賛を浴びる超新星S.ヨンチェヴァのヒロインに注目だ。ジェルモン役T.ハンプソンのベテランの味わいも楽しみ。《イドメネオ》は、METから世界に羽ばたいたリリック・テノール、M.ポレンザーニの主役に期待したい。《ナブッコ》でも健在ぶりを見せつけたMETのレジェンド、J.レヴァインの指揮に再び接することができるのも嬉しいかぎり。チャイコフスキーの美しくも劇的な音楽が心を掴む《エフゲニー・オネーギン》では、世紀のプリマA.ネトレプコが最大の当たり役で登場する。相手役P.マッテイも、表情豊かな美声を武器にオールラウンドに活躍する素晴らしい歌手。英国期待の若手指揮者R.ティチアーティの、スタイリッシュなのに情熱的な指揮も聴き逃せない。
文:加藤浩子
(ぶらあぼ 2017年3月号から)

METライブビューイング2016-17
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