加藤大樹 & 岩崎洵奈 & 桑原志織 & 實川 風 (以上ピアノ) フレッシュ名曲コンサート 若きピアニストによる「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全曲」演奏会

新鋭5人が描くベートーヴェン像

上段 左より:加藤大樹、實川 風 下段 左より:桑原志織、岩崎洵奈 Photo:M.Otsuka/Tokyo MDE
上段 左より:加藤大樹、實川 風 下段 左より:桑原志織、岩崎洵奈
Photo:M.Otsuka/Tokyo MDE
 ベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲を、一気に聴けるコンサートが開かれる。ソリストは、国内外のコンクールで2000年代より頭角を現し、熱い期待が注がれている5人の若手ピアニストたちだ。指揮は岩村力、管弦楽は東京シティ・フィル。
 「ベートーヴェンの作品には、彼の人生を貫く葛藤を源泉としたエネルギーが満ちています。僕自身の苦悩にも寄り添ってくれるようなところがありますね」。そう語るのは、ピアノ協奏曲第1番ハ長調を演奏する加藤大樹。「第1番は若き日の作品で、まだベートーヴェンらしさが完全には出ておらず、試行錯誤が見られます。しかし調の配置がユニークで、すでにロマン派の萌芽も感じられます。明るくユーモアに富んだ作品です」と紹介してくれた。
 第2番変ロ長調は岩崎洵奈が独奏。「第2番は第1番と書かれた時期が近く、やはり若さに溢れています。チャーミングなこの作品を通して、オーケストラとピアノのコミュニケーションをお客様に楽しんでほしいです」と語る。「ベートーヴェンはその偉大さに畏れを抱いてしまうのですが、そこもまた魅力です。ウィーン留学中に彼のゆかりの場所を訪ねては、私なりに親近感を育ててきました」と振り返る。
 第3番ハ短調を弾くのは今回の最年少、1995年生まれの桑原志織だ。巨匠の録音や関連書籍などにあたって勉強を積んできた。「ベートーヴェンのハ短調は、運命交響曲もそうですが、何か特別なパワーがあります。この曲も、ハ短調特有の力強さ、ドラマティックな展開、2楽章の包み込むような優しさ…様々な魅力に溢れているので、その素晴らしさをお伝えしたいです」
 第4番ト長調は、英国王立音楽大学で学んだ今田篤が独奏を務める。ロンドン滞在中のためインタビュー(昨年8月)できなかったが、3度目の共演となる指揮者の岩村とともに、瑞々しい演奏を披露してくれることだろう。
 そして第5番変ホ長調「皇帝」を演奏するのは實川風。2015年のロン=ティボー=クレスパン国際コンクールで3位入賞(1位なし)を果たして以来、益々の実力と人気を積み上げている。「僕もベートーヴェンの作品には畏れを感じ、『凄い!』という刷り込みがあって真剣に取り組んできましたが、ここ1、2年はシンパシーを抱くようにもなってきました。葛藤を生命力へと変換し、ポジティブな姿勢で大きな世界を見ていたベートーヴェン。耳が聞こえなくなったからこそ、有り余るエネルギーがすべて作品内に投入され、感情の流れがとてつもなく長く続く。弾き終わると元気が出てくるのです。『皇帝』も大きな流れで音楽を捕らえ、堂々たる風格を出していきたいです」
 5名はこれまでコンクール会場などでも顔を合わせている良きライバルであり、素晴らしい音楽仲間だ。「楽屋が楽しくなりそう」「みんなで一つのステージを作り上げられることが嬉しい」と笑顔を交わす。加藤、桑原、實川は、会場となる大田区民ホール・アプリコの『お昼のピアノコンサート』出演者でもある。彼らのステップアップを見届けるのも、今回のコンサートの醍醐味となりそうだ。ぜひ1番から5番までのベートーヴェンの協奏曲の変遷と、フレッシュなピアニストたちの挑戦を楽しんでいただきたい。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ 2017年2月号から)

3/5(日)15:00 大田区民ホール・アプリコ
問:大田区民ホール・アプリコ03-3750-1555
http://www.ota-bunka.or.jp/