辻本知彦(振付家)

初音ミクに“人間性”が出るよう振り付けます

 本年(2016年)5月5日、作曲家でシンセサイザー・アーティストの冨田勲が84歳で逝去した。世界的巨匠の遺作『ドクター・コッペリウス』は、国産ロケット開発で知られる故・糸川英夫博士との交流から想を得て宇宙へ旅立つコッペリウス博士とヴァーチャル・シンガーの初音ミクが出会う「スペース・バレエ・シンフォニー」。冨田はストーリー原案と音楽の構想のほとんどを遺しており、追悼特別公演として上演される運びとなった。振付を担当するのがシルク・ドゥ・ソレイユに日本人男性ダンサーとして初出演し、PVやミュージカルの振付でも活躍する辻本知彦だ。
「冨田さんの『月の光』を聴いてそのセンスとチャレンジ精神に溢れた音楽に凄みを感じました」
 オーケストラ(渡邊一正指揮・東京フィルハーモニー交響楽団)とシンセサイザー、バレエと3DCGが絡む一大プロジェクトだけにやりがいがあるという。
「曲が仕上がり、プロットが来るまではあえて寝かせておいてから振り付けしました。クリエーターたちが悩んで模索しギリギリに追い込まれて創っていますがスピード感があります」
 初音ミクと「役者顔を持っている」と辻本が評するダンサー風間無限(コッペリウス役)が踊る場面は見もの。初音ミクの振付はモーションキャプチャーを用い生身のダンサーから動きを採取して創った。
「今までの初音ミクの動きは立体感がなくインパクトが残らない。そこで角度とか形、映像になった時の見え方を気にしながら、気持ちがこもり人間性が出るようにしました。オリジナルなものを創ったと思っています」
 未知の挑戦の支えとなったのは、冨田に対面し本作のプロットについて話をした際に、冨田が漏らした「大した意味なんかないんだよ」という言葉だった。
「理屈づけて説明するとファンタジーの要素が無くなってしまう。自分の感覚でいい部分もある。振付をする以上、絶対に真似事ではなくオリジナルじゃなきゃいけない。冨田さんは先駆者です。自分も振付家としてダントツに素晴らしい振付をしていきたい」
 公演への意気込みをこう話した。
「涙を誘う訳ではないですが“泣かせたい”。普通によかったではなくグッとくるように。初音ミクはヴァーチャルな存在ですが、皆さんがみることによって生きている。その理論でいくと冨田さんも生きている。冨田さんの音楽があるから冨田さんは生きている。冨田さんを感じられるようにしたい。『冨田さん生きているね! 死んでないよ』と伝えたいですね」
取材・文:高橋森彦
(ぶらあぼ 2016年11月号から)

冨田 勲 追悼特別公演 
冨田 勲 × 初音ミク『ドクター・コッペリウス』
第1部:「イーハトーヴ交響曲」、「惑星 Planets Live Dub Mix」
第2部:『ドクター・コッペリウス』
11/11(金)19:00、11/12(土)13:30 18:00 Bunkamuraオーチャードホール
問:キョードー東京0570-550-799
http://www.dr-coppelius.com