フェルッチョ・フルラネット インタビュー Vol.6

C)Igor Sakharov

C)Igor Sakharov


インタビュア:高橋美佐(イタリア語) 構成・質問:岸純信(オペラ研究家)

Q:ところでわれわれ、フルラネットさんの有名な「幸運のかつら」のことを存じ上げていますが(笑)、以前、日本のテレビ番組でそのことをお話しになっていましたね、カラヤン氏との仕事で使ったという、あのかつらですが、あれは、10月の来日の際にも持参されますか?
 当然ですよ、決まっています。あのかつらは、いわば私の「唯一のこだわり」なんです。42年のキャリア生活のあいだ、欠かさず持ち歩いているのです。理由は、1986年のザルツブルグ音楽祭での「ドン・カルロ」にカラヤン氏から急遽呼ばれたあの時、その12時間のあいだに起こったことが、私のアーティスト人生のすべてを一変させたからです。※1 たしかにそれ以前に「見込みのある若者」と言われてはいましたが、まさにカラヤン氏から指名を受ける、という事実が起こったのですから。そのときのかつらを買い取って、何度も使っているうちに色が褪せてきたりしますから、手入れをして、いつも新品同様使えるように、整えてあります。あのときの同じかつらです、変えたことはなく、形もいつもきれいに調整してあります。いつでもおなじかつらです。日本にも持って行きますよ(笑)。
※1:1986年のザルツブルク・イースター音楽祭、カラヤンに指名され、急遽代役出演したフィリッポ役で大成功を収めたフルラネットは一躍スター歌手の仲間入りを果たした。以来、フィリッポ役はフルラネットの代名詞だ。

Q:こんにちまでの長いキャリアのなかで、やる気を亡くしたり、エネルギーが続かなかったり、などの、辛い時期というのはなかったのですか?
 嘘のないところで申します、私はキャリアのスタートから今の今まで、幸運に恵まれ、スランプは一回も起こりませんでした。私のキャリアストーリーは、ゆっくりと進みましたが、持続的でした。初期のマネージャーから受けたアドバイスには大変助けられましたね。彼は、私のキャリアはこのようにして築くべき、という、明確な方法を知っていました。つまり、最初の25年間、ほぼモーツァルトのレパートリーだけに絞ったのです。その結果、私の喉には「どんなときにも効く自然治癒薬」が備わったのです。モーツァルト作品を的確に歌うためには、体にとって究極自然な歌い方を身につけなければならないのです。声を張り上げたり、ごまかしたりできないのが、モーツァルトなのです。こうして身についたものが私の中盤のキャリアを輝かしいものにしてくれたのです。その後もさらにわたしの力を押し上げ、キャリアの後半に入っても声の活力を保たせてくれています。あの初期の過ごし方を間違っていたら、いまの私はいないでしょう。たとえば「アッティラ」のような役を歌う時、音域が曖昧でバス域のアリアからバリトン域のカバレッタまでありますが、これも、いま申し上げた基礎があるおかげで、健康な声である意味「苦労せずに」歌えます。自分でも、20年前、25年前を思い出しながら、よくここまで自分の声を保てたな、と感心しますよ。「道案内を得たおかげで」幸運が生かされた、そんなキャリア人生です。マネージャーと私自身の二人三脚で得たものです。来年の春でデビュー42周年ですが、つねによき年月、淀みなき年月でした。

Q:イタリアやヨーロッパではどのようにおっしゃるのでしょう、私たち日本の文化では、このようにも言います:「幸運は才能の一部である。」と。
 なるほど、そうかも知れません・・・そうかも知れません。もし「宝くじが当たった。」ということならば、これはたしかに「幸運」にちがいないです(笑)。ですがその人自身の適性や身構えといったものを、正しい導きにのせて、最良の方法でそれらを開花させるべく方向を与えられることもまた「幸運」でしょう。そのような幸運は「導かれた幸運」で、それは本人の知恵に基づくものなのです。

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ヴェルディ作曲《ドン・カルロ》
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
管弦楽:マリインスキー歌劇場管弦楽団
演出:ジョルジオ・バルベリオ・コルセッティ

10月10日(月・祝) 14:00
10月12日(水) 18:00
東京文化会館

■予定される主なキャスト
フィリッポ2世:フェルッチョ・フルラネット
ドン・カルロ:ヨンフン・リー
ロドリーゴ:アレクセイ・マルコフ
宗教裁判長:ミハイル・ペトレンコ
エリザベッタ:ヴィクトリア・ヤストレボヴァ
エボリ公女:ユリア・マトーチュキナ
※キャストは変更になる場合がございます。最終的な出演者は当日発表となります。

■入場料(税込)
10月10日(月・祝)14:00
S=¥45,300 A=¥38,800 B=¥29,100 C=¥21,600 D=¥12,900
10月12日(水)18:00
S=¥43,200 A=¥36,700 B=¥27,000 C=¥19,400 D=¥10,800

マリインスキー・オペラ 来日公演2016公式HP
http://www.japanarts.co.jp/m_opera2016

●チケット2次発売:6月25日(土)
詳細:http://www.japanarts.co.jp/m_opera2016/ticket.html
問:ジャパン・アーツぴあコールセンター03-5774-3040

〈歌曲(リート)の森〉 〜詩と音楽 Gedichte und Musik〜 第20篇  フェルッチョ・フルラネット(バス)
10年7日(金) 19:00 トッパンホール