ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)

独墺ピアノ音楽の傾聴すべき王道

 いま正統的なドイツ・オーストリア音楽を聴かせるピアニストは誰か? と考える。すると、まずブッフビンダーの名が浮かぶ。他には? と考えてみても、なかなか彼を凌ぐ者を探すのは難しいだろう。今年70歳を迎えるブッフビンダーは、独墺ピアノ界の押しも押されもせぬ巨匠なのだ。3月、すみだトリフォニーホールが単独で彼のリサイタルを開催する。プログラムはまさに王道の、バッハ、ベートーヴェン、シューベルト。むろん要注目だ。
 5歳でウィーン音楽院への入学を許された彼は、師を辿ればベートーヴェンに行き着く超正統派。特にウィーン・フィルを弾き振りしたベートーヴェンの協奏曲全曲演奏(2013年の来日公演でも披露し、録音もある)が、音楽の都での信頼度の高さを物語る。またベートーヴェンのソナタの楽譜は、数多くのエディションを所有。自筆譜ともども綿密に研究し、50回にも及ぶ全曲演奏を行っている。彼のピアノは、自然でいながら内省的かつドラマティック。音楽の本質を衒いなく聴かせる稀有の存在と言っていい。
 トリフォニーホールでは、2012年のプロジェクトにおけるベートーヴェン&シューマンのリサイタルとブラームスの協奏曲2曲で真価を披露しているが、それを引き継ぐ本演目も実に興味深い。ベートーヴェンの「ワルトシュタイン」ソナタは前記通りの真骨頂。バッハの「イギリス組曲第3番」は最近新録音をリリースし、シューベルトのソナタ第21番は12年録音のCDで名演を聴かせた、共に旬の楽曲だ。中でも“強靭な感傷”ともいうべき深みを引き出したシューベルトは必聴! ここは貴重な王道にぜひ触れたい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年3月号から)

3/4(金)19:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212
https://www.triphony.com