広上淳一(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

「日本フィル・シリーズ」10年ぶりの“新作”

 とうとう来たぞ、「日本フィル・シリーズ」最新作! のっけから興奮気味に書いてしまった。順を追って説明しよう。「日本フィル・シリーズ」とは、同団の創立者・渡邉曉雄が1958年にスタートさせた管弦楽の邦人作品委嘱初演企画で、戦後間もない時期の作曲家たちを奮い立たせ、数多くの名曲が生まれた。2006年に第40作目が発表されたのを最後に沈黙が続き、代わりに数年前からシリーズの名曲を再び世に問う蘇演企画が行われていた。そこには時代の熱気をダイレクトに伝える音のドキュメントがあった。
 しかし再演が重なるにつれ頭をもたげるのは「新しいシリーズ作は?」という思いである。そんな渇望に答えてくれたのが、3月の定期というわけなのだ。白羽の矢がたったのは芸大名誉教授・尾高惇忠。指揮者・尚忠を父に、忠明を弟に持つ音楽一族で、数年前には尾高賞も受賞している。奇をてらわない堅実な書法が特徴で、難解な現代音楽は苦手という人も十分に楽しめる作風だ。
 この新作「ピアノ協奏曲」のソロを務めるのは野田清隆。現代ものにも目が利き、尾高のピアノ・ソナタも初演していて作曲家からの信頼も厚い。指揮は尾高と師弟関係にある広上淳一。曲の聴かせどころをつかむのが巧く、熱い躍動感を引き出してくれるだろう。
 カップリングはシューベルト「未完成」とベートーヴェン「運命」。西洋クラシック音楽の頂点に聳える2大交響楽をあえてぶつけてきたところに、「新しい時代を創る」という意気込みもうかがえる。なんとも頼もしい「日本フィル・シリーズ」の再出発だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年3月号から)

第678回 東京定期演奏会
3/4(金)19:00、3/5(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp