新しい“受像”の手段を届けたい
縁の下の力持ちのヴィオラが独奏楽器として認知されるようになったのは、そんなに昔のことではない。80年代から活動を始めたキム・カシュカシアンは、そんなヴィオラの魅力を開拓してきた伝道師の一人だ。バッハから現代曲まで幅広いレパートリーを懐深い音で聴かせてくれる。
今回の王子ホールでのリサイタルは、ヴィオラの表現領域をまた一つ押し広げる仕事となるのではないか。伴奏を務めるレーラ・アウエルバッハはピアニスト・作曲家としてだけでなく、詩人や美術アーティストとしても活躍する才媛。プログラムは彼女との密度の濃いコラボをうかがわせるものだ。
まずはショスタコーヴィチ「24のプレリュード」。平均律の全ての調を経巡りつつピアノの表現力を引き出した作品だが、今回披露されるヴィオラとピアノ版への編曲もアウエルバッハが手掛けた。続いてドヴォルザーク「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ」。「新世界より」や「アメリカ」などと同じ年に作曲されており、シンプルな歌からドヴォルザークらしい郷愁が立ち上ってくる。
後半はアウエルバッハがカシュカシアンのために書いたソナタ「アルカヌム」が演奏される。2013年にスイスで初演され、すでに録音もなされているようだ。重厚で奥深い表現力を持つこのロシア系作曲家は、カシュカシアンのヴィオラを通じて何を語るのだろうか。
「コンサート体験を通じてレンズとミラー、そして新しい“受像”の手段を、リスナーの耳と心と精神に届けたい」(カシュカシアン)。朴訥とした東欧のメロディからコンテンポラリーの創造まで、個性豊かなアーティストの音の対話を楽しみたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年3月号から)
3/29(火)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990
http://www.ojihall.jp